ストラッター

2013/07/24 シネマート六本木(スクリーン2)
モノクロのかっこいい映像にかっこいい音楽の組み合わせ。
でも話はセコい失恋話。それがいい!by K. Hattori

13072403  恋人に振られて落ち込んでいたロック青年が、周囲の大人や友人たちの支えと励ましを受けつつ、最後は新しい恋人と結ばれてめでたしめでたし……というシンプルな物語。しかしシンプルな物語というのは、ちょっとやそっとではぐらつかない力強さを持っている。

 監督・脚本・製作はアリソン・アンダースとカート・ヴォスで、彼らはそれぞれ単独での監督作も多いのだが、コンビで映画を撮るのは1987年の『ボーダー・レディオ』と1999年の『Sugar Town』に続いてこれが3本目とのこと。アリソン・アンダースと言えば僕にとって『ガス・フード・ロジング』(1992)の監督で、その後タランティーノの『フォー・ルームス』(1995)に参加したり、『グレイス・オブ・マイハート』(1996)を撮ったりして注目されていた女性監督なのだが、最近はすっかりテレビドラマの世界に行ってしまっているようだ。IMDbによれば、本作はアンダース監督にとって『Sugar Town』以来の映画作品。

 製作予算2万5千ドル以下だそうで、これは学生映画並みの低予作品なのだが、監督たちはプロフェッショナルなので安っぽさは微塵もない。主人公周辺の人間関係や古い映画に対する偏愛は『ガス・フード・ロジング』にも似ているし、音楽業界の話という部分は『グレイス・オブ・マイハート』に通じるものがある。僕は未見だが『ボーダー・レディオ』もロックバンドの話だそうで、要するにこの『ストラッター』も監督たちの得意とする世界なのだろう。(カート・ヴォス監督の映画は1998年の『アリッサミラノの堕落の園』ぐらいしか観ていないが、この作品はあまり印象に残っていない。)

 今回の映画が僕は大いに気に入っているのだが、それは映画の世界観とストーリーがきちんと噛み合って、充実したものになっているからだ。世の中にはやたらと風呂敷を広げておきながら、小さな物語しか作れずガッカリさせる映画もあれば、小さな世界にぎゅうぎゅう詰めにアイデアを押し込んで窮屈で息苦しいものにしてしまう映画もある。これは弁当箱と食材の関係みたいなものだ。立派な三段重ねの重箱を開いてみれば、中身がスカスカでほとんどめぼしい食べ物がないという弁当もある。かと思えば小さな弁当箱にご飯やおかずを詰め込みすぎて、カチカチの押し寿司みたいになってしまう場合もある。大事なのはバランスなのだ。立派な重箱にはそれに見合った話が必要だし、小さな弁当箱でもバランスよく中身を詰めれば充実感が味わえる。この映画は小さな弁当箱にバランスよく、というタイプだ。

 有名な俳優が出るわけでもなければ、派手な特撮が売りのスペクタクルでもなく、死ぬほど泣ける感動作でもない。でもこの映画はそこがいいのだ。面白い映画は他にいくらでもある。でも本当にカッコイイ映画を観たければ、この映画を観ればいい。

(原題:Strutter)

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9月14日公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田
配給:フルモテルモ、コピアポア・フィルム 宣伝:メゾン
2012年|1時間27分|アメリカ|B&W|1.78:1|ステレオ
関連ホームページ:http://strutter-the-movie.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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