規定を無視した無謀な操艦をとがめられ、エンタープライズ号の艦長から降ろされてしまったカーク。彼はロンドンで起きた爆破テロに対応する会議に呼び出されるが、その会議が何者かの襲撃を受ける。この突然の襲撃で、カークを引き立ててくれたパイク提督など多くのメンバーが犠牲になった。ロンドンでテロを起こし、艦隊司令部の会議を襲撃した犯人の名はジョン・ハリソン。彼は司令部を襲撃した直後に小型ワープ装置でクリンゴンの支配惑星クロノスへと逃れていたのだ。ハリソンを捕らえるためにそこに近づけば、場合によってはクリンゴンと戦争状態になることもあり得る。カークはハリソンを捕らえるという緊急任務のために、エンタープライズ号の仲間たちと共にクロノスへと向かうのだった……。
2009年に製作公開された『スター・トレック』の続編。前作と同じスタッフとキャストだが、キャストの中には新メンバーもちらほら。何人かはこのシリーズの3作目以降にも出演することになるだろうが、中でも強烈な個性を発揮しているのは、ジョン・ハリソン役のベネディクト・カンバーバッチだ。アクション映画の主人公を引き立てるには、主人公をある面では凌駕する、強いカリスマ性を持った悪役が必要になる。本作のハリソンはまさにそんな悪役だ。強靱な肉体と精神力を持ち、仲間を救うために躊躇することなく危険の真っ直中に飛び込んで行ける男。彼はある意味では、主人公ジム・カークやスポックにとてもよく似ているのだ。カークとハリソンがある種の兄弟関係にあることは、映画の終盤にあるエピソードでより強調されることになる。
今回の映画はシリーズ初の3D作品で、映画冒頭にある異星での追跡シーンや火山大噴火の場面から迫力満点。宇宙艦隊の幹部会議が襲撃されるシーンや、宇宙船から別の宇宙船に飛び移るシーン、宇宙船内の重力の大混乱、クライマックスの大スペクタクルなども含めて、大画面の3D映像で見る価値が十分にある映画だろう。試写室はIMAXではなかったが、たぶんIMAXで見ればより真価を発揮する映画だと思う。日本映画は少しずつ3Dから後退しているが、ハリウッドは3Dで映画の未来を切り開こうとする勢いをまだ失っていないように思える。
というわけで映像のスケールはやけに大きな映画だが、ドラマ部分がそれに見合う大きさを持っているかと言うと、必ずしもそういうわけではない。描かれているのはカークとスポックの友情だったり、パイク提督の仇討ちだったり、マーカス提督の親子確執ドラマだったりと、主人公の身の回りの範囲で展開して行くだけなのだ。宇宙が滅ぶとか、全人類が滅亡するとか、宇宙全体を巻き込む大戦争が起きるとか、そいういう大きな物語を提示しないまま、物語は仲間内の小さな世界の中で終始する。そのため2時間を超える映画でありながら、観終わった後の印象は軽やかで爽やかな青春群像ドラマになっている。
(原題:Star Trek Into Darkness)
サントラCD:スター・トレック イントゥ・ダークネス
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