囚われ人

パラワン島観光客21人誘拐事件

2013/06/20 シネマート六本木試写室
2001年5月にフリピン・パラワン島で起きた誘拐事件の映画化。
間抜けな展開の中にリアルさがある。by K. Hattori

13062001  アメリカで起きた9.11テロに先立つ4ヶ月ほど前の2001年5月。フィリピンのリゾート地パラワン島のホテルから、21人の観光客が誘拐された。途上国の誘拐ビジネスは、ほとんどが「ビジネス」だ。誘拐犯もそれを心得ているから、顧客との信頼関係を大切にする。身代金さえ支払われれば、人質はあっさりと解放されるのだ。だが交渉は長期化に渡り、時には何ヶ月も人質が拘束され続けることがある。1986年にフィリピンで三井物産のマニラ支店長が誘拐された事件では、誘拐から解放まで4ヶ月以上かかった。パラワン島の誘拐事件では間の悪いことに、事件発生からおよそ3ヶ月後に9.11テロが起きる。これで世界中に「テロに屈しない」「テロリストと交渉しない」という機運が高まり、最終的には軍隊による強行突入で人質の中から犠牲者が出ることになったのだ。この映画はそんな事件の一部始終を、人質になったフランス人女性の視点で描いている。

 誘拐ビジネスは、大規模な底引き網漁みたいなものだ。漁師役の武装テロリストが特定の施設(ホテル、レストラン)を襲って、そこにいる全員を一網打尽に捕らえてしまう。その上で金になりそうな人質だけ残し、そうでない人質はすぐに解放する。身代金が少額なら誘拐グループが直接人質家族と交渉することもあるが、金額が大きくなると、人質は交渉役の別グループに転売される。漁師が網で捕った魚のうち、食べられないものは捨ててしまい、市場で値がつかないものは自分たちで自家用にし、値がつくものは地元の市場に流され、特別な高級魚は築地に運ばれるのと同じだ。ところがパラワン島の誘拐事件は少し様子が違った。

 パラワン島の事件では人質の選別が船の上で行われたが、そこで人質の大半に値段がつかないことが発覚する。リゾートホテルに宿泊しているから外国の資産家ばかりかと思いきや、地元の人間も結構いたし、外国人も一般の労働者階級が多かったのだ。これでは人質の家族から金を引き出すことは出来ない。人質が外国人なら交渉相手は相手国政府になるが、2001年の段階では(9.11テロの前でさえ)テロリスト相手に簡単に身代金を支払う政府はない。なんとも間抜けな話だが、この間抜けさがむしろリアルな緊迫感を生んでいる。「身代金が支払われれば人質が解放されて一件落着」という出口が、この時点で閉ざされてしまうからだ。解決への出口が見えないまま、人質と犯人グループは1年以上に渡ってフィリピンのジャングルの中を移動し続ける。

 モデルになった事件の詳細は情報が開示されていないとのことで、この映画ではイザベラ・ユペールが扮するNGO職員の立場に視点が固定化されている。物語の全体を俯瞰する視点がないまま、映画を観る人間も出口のない時間の中をさまよい続ける。誘拐をモチーフにした映画は多いが、この映画はリアルさでは群を抜いているのではないだろうか。

(原題:Captive)

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7月6日公開予定 シネマート新宿ほか全国順次公開
配給:彩プロ パブリシティ:プリマ・ステラ
2012年|2時間|フランス、フィリピン、ドイツ、イギリス|カラー|ビスタサイズ
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