ベルリンファイル

2013/05/29 東映第1試写室
国際都市ベルリンでしのぎを削る北朝鮮と韓国のスパイたち。
ハン・ソッキュが映画を食ってしまった。by K. Hattori

13052902  日本とは国交を閉ざしている北朝鮮だが、世界中の国が北朝鮮と同じように断交しているわけではない。北朝鮮は旧共産圏を中心に、昔も今も多くの国と活発な外交関係を持っているのだ。そんな北朝鮮の外交にとって、ヨーロッパ最大の拠点になっているのがベルリンにある北朝鮮大使館だ。ベルリンにはもちろん韓国の外交拠点もあり、朝鮮半島の諜報戦がそのままベルリンでも行われている。この映画はベルリンにおける北朝鮮と韓国の諜報戦を、大がかりなアクションをふんだんに盛り込んで描いた娯楽大作。南北朝鮮の諜報機関だけでなく、アラブ、イスラエル、アメリカなども入り乱れて、国際的なスケールでの陰謀が展開する。

 この映画はふたつの軸を持っている。ひとつは北朝鮮スパイ、ピョ・ジョンソンを軸とした、北朝鮮大使館内部で展開する陰謀と権力抗争だ。もうひとつは、彼を追う韓国情報局の諜報員、チュン・ジンスの活動だ。しかしこれはどう見ても、北朝鮮側のピョ・ジョンソンが主役で、韓国側はその活動をあぶり出していくための狂言回しに過ぎない。ところがキャラクターとしての魅力では、ハ・ジョンウが演じる北朝鮮スパイより、ハン・ソッキュ演じる韓国諜報員の方が親しみの持てる人物になっている。結果としてハン・ソッキュが映画全体を食ってしまい、物語がもともと持っていたであろうスリルやサスペンスの面白さを殺してしまうのだ。

 ヒッチコックとトリュフォーの古典的名著「映画術」によれば、画面に出てくるのが極悪非道な犯人であったとしても、その人物が命の危機にさらされれば観客は感情移入してしまうのだという。この映画で言えば、北朝鮮の大使館員が拷問にかけられるシーンがそれに近い状況だろう。彼は別に物語の中心人物ではないし、清廉潔白な正義の人でもない。でも彼が拷問されれば、観客は気持ちの上で痛みを感じる。ところが困ったことに、この映画では主役である北朝鮮スパイやその妻が緊迫した状況に追い込まれても、あまりハラハラドキドキしないのだ。追い込み方が足りないのか。それとも人物の造形にもう少し膨らみがあったほうがいいのか。

 たぶん原因のひとつはハン・ソッキュの韓国諜報員だろう。観客は彼の視点を借りて、この映画を観ることになる。ところが彼にとっては、北朝鮮スパイの夫婦がどうなろうと、根本的にはどうでもいい。彼がこの夫婦に肩入れするのは、物語の終盤になってからだ。この肩入れポイントを、もう少し映画の前の方に出すと、映画後半の展開や盛り上がりはまったく違ったものになっていたと思う。例えば韓国側が盗聴や通信傍受によって、北朝鮮スパイより先に大使館内の権力抗争のカラクリに気付いている展開にするなど、方法はいくつか考えられるはずだ。もっともキャラクターは面白いので、この映画は続編を作ってもいいかもしれない。

(英題:The Berlin File)

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7月13日公開予定 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:CJ Entertainment Japan 宣伝:樂舎
2013年|2時間|韓国|カラー|シネスコ|5.1chサラウンド
関連ホームページ:http://berlinfile.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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