フィギュアなあなた

2013/04/24 角川映画試写室
孤独な青年が出会った等身大フィギュアに命が宿る。
石井隆監督のエロチック・ファンタジー。by K. Hattori

13042403  大手出版社の編集部に務める内山は、上司が強引に押し進めた失敗企画の責任を取らされて左遷となり、そのまま会社を辞めてしまう。同じ会社に勤めていた恋人にも振られ、新しい仕事も見つからず自暴自棄になった彼は、ある日廃墟のようなビルの中で、人間そっくりに作られた等身大の女性フィギュアを見つけて家に持ち帰る。内山はフィギュアに心音(ここね)という名前を付け、奇妙な同棲生活がスタート。命のない人形でありながら、その心音は内山に語りかけ、動きまわり、やがて内山は心音と結ばれるのだった……。

 原作・脚本・監督は石井隆。劇画家でもある監督が、20年ほど前に青年誌向けに書き下ろした「無口なあなた」を原作にしたファンタジーだ。グラビアやイメージビデオで人気がある佐々木心音を主演に、石井監督で何か映画を1本……というのが企画の出発点だそうで、監督は演技体験がほとんどない彼女のために、命を持った等身大フィギュア(マネキン人形)というキャラクターを過去の作品から引っ張り出してきたようだ。なお石井作品の中ではヒロインの名前がたいてい「名美」なのだが、今回の映画は名美不在の作品になっている。

 映画というのは大なり小なりファンタジーの要素を持つものだが、石井監督の映画というのも常にファンタジーで満ちていた。映画に登場するキャラクターに作者の願望や理想が強く投影されるのは当然だが、石井監督の作品はそれが完全に固定化されたパターンとして成立していたのだ。名美と村木が出てくる映画がやたら多いのは、そこに監督が自分の願望と理想を投影しやすいからに違いない。ところが今回の映画には、名美も村木もいない。ここには監督の理想も願望もなく、あるのは監督の妄想だけだ。佐々木心音という若いタレントをどうにでも好きに使えるという開放感の中で、石井監督が好き放題にヒロインをオモチャにしている。カメラの前で股間に指を突っ込み、ノーパンの大股開きで宙を舞い、高く足を上げてキックして、銃をぶっ放す。

 この映画の中の佐々木心音には、女優であることがまったく期待されていない。ここにあるのは性的なオブジェとしての彼女の若い肉体であり、石井監督は映画を言い訳にして、そのオブジェを好き勝手にもてあそんでいるのだ。ひどく不謹慎であり、猥褻な話だと思う。でもこれほどに映画の自由さを感じさせる作品を、最近あまり観たことがない。映画って自由だ。こんなにも自由だ。映画って何でもできてしまうのだ。何をやってもいいのだ。

 この映画には石井監督作品に特有の重苦しいムードや、ハードなバイオレンス描写もある。しかしこの映画は途中から、物語の底が抜けて緊張感ゼロの世界に突入して行く。そしてその状態を取り繕うでもなく、完全に開き直っている。この開き直った底抜けっぷりこそ、この映画の見どころであり魅力だろう。これはカルトムービーになるかもしれない。

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6月15日公開予定 池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー
配給:角川書店
2013年|1時間52分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://www.amai-muchi.jp/figua-anata/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作収録単行本:カンタレッラの匣(石井隆)
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