ハーブ&ドロシー

ふたりからの贈りもの

2013/02/15 映画美学校試写室
夫婦が40年がかりで集めたコレクションが全米の美術館へ。
コレクターにとっては夢のような映画だろう。by K. Hattori

13021502  2008年に製作されたドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』の続編。じつは前作を観ていないのだが、この続編だけ観ても内容はわかる。

 郵便局員のハーバート(ハーブ)と図書館司書のドロシーは1962年に結婚。この頃からふたりは、自分たちの給料で若い現代アート作家の作品を買い集めはじめる。生活はドロシーの給与でまかない、ハーブの給料をアート作品の購入資金にする。ドロシーはさほど美術に興味がなかったが、もともとアーティスト志望だったハーブと連れ立って毎日のように展覧会に出かけ、作家のアトリエを訪問し、作家たちと友だち付き合いをしながら、こつこつと作品を買い集めていく。作品選択の基準は、自分たちのお金で買えることと、自宅アパートに収納できること。若い作家の作品は値段も手頃で、普通の勤め人だったふたりにも手が出しやすかったのだ。そんな生活を30年ほど続けたところで、ふたりの1LDKのアパートは数千点のコレクションで埋め尽くされてしまった。夫妻は自分たちのコレクションを、アメリカ国立美術館ナショナルギャラリーに寄贈することを決める。だが何しろ点数が多く、全部を保管することは不可能だ。そこで「ハーバード&ドロシー・ヴォーゲル・コレクション 50×50」というプロジェクトが立ち上がる。夫妻のコレクションを50点ずつに分けて、全米50州にある50の美術館に寄贈するのだ。これによって全米に散らばっていくコレクションの数は2,500点。この映画は、そんな「50×50プロジェクト」についての記録となる。

 夫妻のコレクションはオークションに出せばかなりの値打ちになるはずだが、それらをまとめて全部美術館に寄贈してしまうのは大したもの。それも夫妻のコレクションにそれだけの値打ちがあればこその話で、これは何らかのものをコレクションしている人にとっては夢のような話に違いない。世の中には酒瓶のラベルだのタバコの箱だのシールだの、他人の目から見るとどこに値打ちがあるのかわからないようなものを集めているコレクターがごまんといる。おそらくこの映画の主役であるハーブとドロシーも、現代アートを買い集めている時は、周囲から似たような目で見られていたと思う。それらは子供の落書きやインクの染み、ゴミ捨て場に打ち捨てられているガラクタとどこが違うのか。しかし何十年もそれらを集め続けているうちに、夫妻のコレクションは優れた「現代アート史の歩み」としてとても価値あるものとなった。

 これはコレクターにとって夢の世界だ。現代アート云々以前の話として、コレクターにとってこれほどの幸福はないだろう。世界中にいるコレクターの収集品は、ほとんどの場合、本人たちが死ねば遺族によってゴミ捨て場に運ばれてしまうのだから……。何かをコレクションしている人は、この映画を観るといいと思う。

(原題:Herb & Dorothy 50X50)

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3月30日公開予定 新宿ピカデリー、東京都写真美術館ホール
配給:株式会社ファイン・ライン・メディア・ジャパン
配給協力:ADEX(株)、日本経済広告社、Playtime 宣伝:Playtime
2013年|1時間27分|日本|カラー|デジタル上映
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
前作DVD:ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人
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