汚れなき祈り

2013/02/14 京橋テアトル試写室
2005年にルーマニアの女子修道院で起きた悪魔祓い事件の映画化。
修道院の生活の様子が興味深い。by K. Hattori

13021402  2005年にルーマニア正教の女子修道院で起きた、悪魔祓い儀式による死亡事件を映画化した作品。実話をもとにした作品の常で、映画の中の出来事は実際の事件を多少アレンジしてある。登場人物は整理され、出来事が再構成されることで時間が圧縮されているが、おおよその流れは実際の事件に沿っているようだ。映画の原案になったのは、実際の事件を取材したノンフィクション小説。それを『4ヶ月、3週と2日』のクリスティアン・ムンジウ監督が映画用に脚色した。ムンジウ監督によれば、この映画の脚本は事件の再現ではなく、映画のために再構成されたフィクションだという。

 孤児院で育った2人の少女の物語だ。同じ孤児院で育てられたヴォイキツァとアリーナは親友同士だったが、アリーナは里親に引き取られて成人し、やがてドイツに働きに出た。一方ヴォイキツァは信仰に生きることを決め、女子修道院で祈りの日々だ。離れ離れの数年間が過ぎた頃、アリーナが突然ドイツから帰国して、ヴォイキツァの暮らす修道院に転がり込んでくる。今回の帰国はアリーナが正式にドイツに移住するための書類整備が名目だが、彼女には秘かな企みがあった。それはヴォイキツァを連れてドイツに行き、昔のように一緒に暮らすことだ。だが修道女になったヴォイキツァは、そんな親友の願いに応えることはできない。アリーナは精神状態が不安定になり、極度の興奮状態となって暴れはじめる。病院に担ぎ込まれたアリーナはしばらくすると落ち着きを取り戻すが、気分屋で感情の起伏が大きく、ヴォイキツァや修道院の人々を戸惑わせるのだった……。

 映画を観ていると、修道院の人たちが悪魔祓いに追い込まれてしまう様子がよくわかる。彼らはアリーナが精神病だということを知っている。アリーナには特別なケアが必要で、本当に必要なのは医者の治療だということも十分に理解していたはずなのだ。だがアリーナには身寄りがない。誰かが彼女の身の回りの世話をしなければならない。彼女には金もない。誰が治療その他の費用を負担するのだろうか。彼らは病院に行く。だが病院はアリーナの入院ではなく、在宅での治療を薦める。彼らは里親のところにも行く。だがそこでも助けは得られない。修道院の人々は、彼らに考えられる限りのことを精一杯行ったのだ。だが解決策は見つからない。八方手をつくしても助けが得られなかった時、宗教者が選ぶべき道は決まっている。神様の助けを請うことだ。人事は尽くした。あとは天命を待つばかり。神に不可能はない。かくして、悪魔祓いの儀式がスタートする。

 物事の合理的な解決法が見つからなくなった時、人は不合理な解決法にすがる。だが問題は人がそこまで至ってしまうと、もはや合理的には物事が考えられなくなってしまうことだ。聡明で心優し人たちが、もっとも愚かで残酷な振る舞いに至ってしまう悲劇が起きたのだ。

(原題:Dupa dealuri)

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3月16日公開予定 ヒューマントラストシネマ有楽町
配給:マジックアワー
2012年|2時間32分|ルーマニア、フランス、ベルギー|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
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