ベラミ

愛を弄ぶ男

2012/12/26 京橋テアトル試写室
モーパッサンの長編小説「ベラミ」を豪華キャストで映画化。
主人公ジョルジュの色悪ぶりが痛快。by K. Hattori

Belami  長編「女の一生」や短編「脂肪の塊」で知られるギ・ド・モーパッサンの小説「ベラミ」を、『トワイライト』シリーズで美しいヴァンパイア青年を演じたロバート・パティンソン主演で映画化した文芸ドラマ。ハンサムで人当たりはいいが、貧しくて教養も才能もない青年ジョルジュ・デュロワが、美しい人妻たちを手玉に取りながら立身出世を遂げていくというピカレスク風の作品だ。主人公に手玉に取られる人妻たちに、ユマ・サーマン、クリスティーナ・リッチ、クリスティン・スコット・トーマスといった立派な顔ぶれが揃っている。

 主演のパティンソンは『トワイライト』シリーズという当たり役があるものの、大ヒットしたシリーズ1本では、たまたま当たりくじを引いたラッキーボーイでしかない。映画ファンの多くは「イケメンなのはわかるけど、演技者としてはどうなのよ?」と思っているのではないだろうか。『トワイライト』のエドワードは人間離れした吸血鬼なので、感情表現なども超然としていて、演技者としての実力につかみ所がないのも事実だったりする。こうしたパティンソンの「わかりにくさ」が、本作『ベラミ』の主人公ジョルジュのキャラクターと上手い具合に噛み合っているのが面白い。ジョルジュはイケメンだが、ただそれだけの男だ。野心はあるが、才能はない。パティンソンの才能云々を言うのは失礼だが、確たる過去を持たない青年が突然大舞台の中央に引っ張り出され、その中でそれなりに役を演じてみせるという『ベラミ』の主人公像は、パティンソン本人と大いに重なり合うところがあるように思う。

 ジョルジュが感情をあまり表に出さずに振る舞っているのに対し、彼の毒牙の餌食になる3人の女たちはキャラクターの個性がくっきりと浮き出ていて三者三様の面白さがある。ユマ・サーマン演じるマドレーヌは、ジョルジュを操ろうとして最後に手ひどいしっぺ返しを受ける19世紀のキャリアウーマン。自らの野心のために恋も結婚も利用するという計算高さではジョルジュに最も似た性格の女で、ジョルジュが真に愛した女はひょっとすると彼女だけだったのかもしれない。2番目の女はクリスティーナ・リッチが演じるクロチルドだが、彼女は愛する男に従順であり、男の冷酷な振る舞いに耐えることができる強い女。ジョルジュは本当は彼女と一緒にいれば、ひとりの男性として幸せになれたのかもしれない。だが彼の野心は彼女と築く小さな幸せではなく、彼女を裏切り踏み台にする人生を選ばせる。3人目はクリスティン・スコット・トーマスが演じるヴィルジニ。社長夫人という立場をかなぐり捨ててジョルジュとの情事に溺れるが、彼に裏切られるや半狂乱になる愚かな女。感情表現の振幅という点ではこのヴィルジニが際立っていて、最初は「オスカー女優のわりにつまらない役をやってるなぁ」と思って観ていたが、映画終盤で感情を爆発させるところは「さすが!」と思わせる。

(原題:Bel Ami)

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3月9日公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷
配給:ツイン 宣伝:アルシネテラン
2012年|1時間42分|イギリス|カラー|スコープサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://belami-movie.info
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
輸入DVD:Bel Ami
サントラCD:Bel Ami
原作:ベラミ(モーパッサン)
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