マリー・アントワネットに別れをつげて

2012/11/28 シネマート六本木(スクリーン4)
フランス革命を宮廷で働く下級女官の視点で描く歴史ドラマ。
歴史に翻弄される人々をリアルに描く。by K. Hattori

Wakarewotsugete  7月14日はパリ祭。1789年のこの日、フランス革命の着火点となったバスティーユ監獄襲撃が起きたことを記念するフランスの公定休日だ。だがバスティーユ襲撃が起きた当時、パリ市民も貴族たちも、これが国王と王妃を断頭台に送る大革命のスタートになるとは思っていなかっただろう。しかしこの事件は、王や貴族が支配するフランス社会の有り様を大転換させる事件となった。王や貴族たちはこの事件をどう受け止め、どう対処しようとしたのか。本作『マリー・アントワネットに別れをつげて』は、それを克明に描いた歴史再現ドラマだ。

 物語の語り手となるのは、宮廷で王妃の朗読係として働く若い女官のシドニー。市民には評判の悪いアントワネット王妃だが、シドニーにとって王妃は憧れのアイドルだ。彼女は毎日そわそわとした気持ちで、アントワネットの寝室に向かう。目覚めたばかりの王妃に、お気に入りの本の一節を朗読するためだ。7月14日の朝も、いつもと何も変わらず幕を開けるのだが……。

 物語はバスティーユ襲撃の日の朝から始まり、王妃の親友と言われながら早々に王宮から逃走したポリニャック夫人のベルサイユ脱出までを描く。その間わずか4日間。映画はこの4日間を時系列に描いて、ベルサイユ宮殿の穏やかで平和な日常があっと言う間に消え去り、貴族たちがパニックを起こして右往左往する様子を再現していく。映画を観ている側は、バスティーユ襲撃が歴史的にどれだけ重要な出来事かをよく知っている。しかし当時宮殿の中で生活していた人々には、その自覚がまだない。貴族たちは宮殿で、いつも通りの生活をしている。小間使いたちは雑事に追われ、女官たちは王族の身の回りの世話に駆け回り、貴族たちは王やその家族へのご機嫌うかがいで忙しい。しかしそれはほんの数日で消え去ってしまう。

 歴史ドラマの主人公たちは、2つの物語の中を生きている。それは大きな物語と、小さな物語。大きな物語とは、歴史の教科書に載るような、大きな歴史の登場人物としての物語のこと。小さな物語はそうした歴史とは比べものにならない、ごく私的な領域で悩み葛藤する等身大の人間としての物語だ。この映画で言えば、登場人物たちは全員が「フランス革命」という大きな物語を共有している。しかしその大きな物語の枠組みの中で、登場人物たちが抱える小さな物語が火花を散らしていく。恋人であるポリニャック夫人への思いに苦悩するアントワネット王妃と、王妃への恩義と愛情に後ろ髪を引かれながらも、自分自身と家族を守るため宮殿から逃れていくポリニャック夫人の思い。王妃に同性愛的な思慕の念を抱きながら、彼女に対する忠誠心からポリニャック夫人の逃亡を手助けせざるを得ないシドニーの苦しみ。映画はこうした中心人物たちの小さな物語の周辺に、宮廷に出入りする王族や貴族、使用人たちそれぞれの小さな物語を丁寧に描写し、モザイクのように貼り合わせている。

(原題:Les adieux a la reine)

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12月15日公開予定 TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ
配給:ギャガ パブリシティ:メゾン
2012年|1時間40分|フランス、スペイン|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル、ドルビーSR
関連ホームページ:http://myqueen.gaga.ne.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:王妃に別れをつげて(シャンタル・トマ)
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