兵士、その後

2012/10/24 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(ART)
スリランカ内戦が終わって故郷に戻ってきた青年の見た風景。
ハードボイルドな犯罪サスペンス映画だ。by K. Hattori

Iniavan  2009年5月。1983年からの26年間で、7万人以上の犠牲者を出したスリランカ内戦が終結した。タミル人独立を目指した反政府武装組織は武装解除に応じ、兵士として戦場に出ていた若者たちは故郷の村へと帰還していく。だがタミル人たちの村は戦争で大きく傷つき、人々の心はささくれ立っている。この映画の主人公である青年も、武器を置いて故郷に帰ったがまったく歓迎されない。村からは多くの若者たちが出征し、その大部分が命を落とした。近所の仲間を誘って一緒に戦場に行ったのに、なぜ彼ひとりが生き残って帰ってきたのか……。

 かつて大英帝国の植民地だったスリランカでは、宗主国であるイギリスが民族分断政策を実施し、少数のタミル人が多数派のシンハラ人を支配する体制を作り上げた。だが第二次大戦後にスリランカがイギリスから独立すると、人口で多数派のシンハラ人が政権を握り、シンハラ人を優遇してタミル人を徹底的に差別する報復的な政策を行うようになる。新政府からあらゆる権利を奪われたタミル人たちは、タミル人国家の樹立を目指して「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」を設立し、1983年以降は大規模な武装闘争を行い内戦状態になったのだ。LTTEは海外に住むタミル人たちから物資と資金の援助を受けて長い戦いを続けたが、政府軍の反撃で徐々に拠点を奪われ、2009年5月には組織が瓦解するに至った。

 この映画はスリランカ版『仁義なき戦い』みたいなものだ。『仁義なき戦い』は終戦後の闇市から始まるが、戦争ですべてが破壊され、人心が荒廃しているのはスリランカも同じこと。戦争から帰ってきた主人公の青年は好きな女と所帯を持って正業に就こうとするが、タミル人たちの居住地区にはこれといった仕事がない。ようやく得た宝石店のガードマンの仕事で一息つくが、ひとりが仕事を得ればひとりが仕事を失う。主人公が職を得たことで押し出される形になった男は、家族揃って主人公に恨みがましく付きまとう。やがて主人公は雇い主の宝石店主から、危険な匂いのする仕事の手伝いを命じられる。断れば明日からまたあてのない職探しに逆戻りだ。彼はこの仕事を断ることができない。

 物語は結構ハードボイルドだ。主人公である名無しの男が自分の意図に反して事件に巻き込まれて行き、そこに主人公をサポートするようにタフなヒロインがからむ。最後は主人公が、ヒロインを守るため敵を追い詰める。しかしここに大都会のアスファルトジャングルはない。人工照明が作り出す夜の陰影もない。目に入るのは巨大な闇ばかりだ。その闇の中で、「なぜ自分は死ななかったのか」と思い悩むヒーローと、「生き抜くことが人生の意味だ」と言うヒロインが出会い、最後は「生きてさえいれば」が勝利する。人生は続く。人は生きていく。

(原題:Ini Avan)

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10月26日上映 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
10月28日上映 シネマート六本木
配給:未定
2012年|1時間44分|スリランカ|カラー
関連ホームページ:http://2012.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=99
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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