合衆国最後の日

2012/10/09 TCC試写室
核ジャックを描くロバート・アルドリッチのサスペンス大作。
テーマは今さらの感もある。by K. Hattori

Gasyukoku_saigo  ロバート・アルドリッチ監督が1977年に発表したサスペンス映画。主人公の核ジャック犯を演じるのはバート・ランカスターで、彼と対立する将軍役にはリチャード・ウィドマーク。2時間半の大作で、当時はかなり挑発的な内容だったのだろうが、映画の背景には東西冷戦があるため、現在の視点から見るとどうもピントがずれた昔話に思えてならない。しかし3.11の原発事故後に起きた日本国内での政治家たちの右往左往ぶりを見ると、この映画に描かれた世界は現在の日本をそのまま先取りしているようにも思える。

 1981年。モンタナ州立刑務所から逃げ出した4人の脱獄犯が、厳重な警備をかいくぐって空軍のミサイル基地を占拠する。犯人グループのリーダーであるローレンス・デルはこのミサイル基地を設計した元将軍。脱走犯のうちひとりは基地突入の際に射殺されたが、デルは残るふたりと共に基地の中枢部を掌握し、ミサイル発射スイッチに手をかけて合衆国を脅迫する。犯行グループの要求は現金1,000万ドルと、大統領専用機エアフォースワンによる国外脱出。移動の際の人質として大統領自らが同行すること。だがデルの本当の狙いは、政府がひた隠しにする秘密文書を公開させることだった。その文書には、アメリカが東西冷戦に打ち勝つためベトナム戦争を意図的に長引かせ、多くの自国民に犠牲を強いている真実が書かれていた。要求に従わない場合、デルは基地にある9基の核ミサイルをソ連に向けて発射するという。これはそのまま第三次世界大戦の勃発と、人類の滅亡を意味していた!

 映画は1977年に公開されたが、物語の舞台はそれから4年後の1981年。国家が握る秘密情報を開示させるため、主人公たちが非合法な手段で脅迫するという筋立ては荒唐無稽に思われるかもしれないが、じつはこの1981年に、この映画が予告したのと同じような事件が起きている。ただし実際の事件で起きたのは、核ジャックではなかった。アイルランド航空の旅客機がハイジャックされ、犯人はバチカンの秘匿するファティマ第3の秘密の開示を求めたのだ。この事件は犯人逮捕であっさりと片が付き、バチカンが隠した秘密は結局2000年になって公式に発表される。その内容は、1981年に起きたローマ教皇暗殺未遂を予告したものだったとされている。またしても1981年! 『合衆国最後の日』には核ジャックと秘密開示要求と大統領の苦悩が描かれているが、それは場所をバチカンに移して実現してしまったと言えるのかもしれない。

 それにしてもこの映画を観ていて白けた気分がするのは、「国家が国民を守らない」ということが大きなスキャンダルとして描かれているからだろう。そんなことは原発事故を体験した日本人なら、実感として誰もが知っていることだ。産業界を守るという名目で原発の再稼働を目指す政治家たちの姿は、この映画に登場する軍人たちの姿と重なり合う。

(原題:Twilight's Last Gleaming)

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11月3日公開予定 シアターN渋谷(モーニングショー)
配給:boid 宣伝:VALERIA
1977年|2時間26分|アメリカ、西ドイツ|カラー|ヴィスタサイズ
関連ホームページ:http://www.gasshukoku-movie.com
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