アイアン・スカイ

2012/08/30 松竹試写室
月の裏側に秘密基地を作ったナチス第四帝国が地球侵略!
ナチス版『マーズ・アタック』みたいな映画。by K. Hattori

Ironsky  西暦2018年。再選を目指すアメリカ大統領は、国民の支持率アップを狙ってアポロ17号以来46年ぶりの有人月探査ミッションを実施。選挙対策の月面探査メンバーの中には、黒人票を当て込んで、黒人ファッションモデルのジェームズ・ワシントンが混じっていた。だが無事に月面に着陸したジェームズが見たのは、月面に広がる巨大な秘密基地。ヨーロッパ戦線で敗退したナチスドイツが、持てる技術の総力を結集して作り上げた新たな帝国だった。月面で着々と地球反攻計画を練り上げていたナチスは、ツェッペリン型の宇宙空母と円盤形攻撃機の大軍で地球を侵略。思いがけない月からの攻撃に、地球人たちはたちまち追い詰められていく。一方ナチスに捕らえられたジェームズは、人種改造手術で白人になって地球に送り返される。肌が白い黒人ファッションモデルに、人々はまったく見向きもしない。ホームレスになったジェームズは地球にやって来ていたナチスの女性幹部レナーテを説き伏せ、ナチスに反撃するため再び月へと向かうのだった……。

 『スターレック 皇帝の侵略』のフィンランド人監督ティモ・ヴォレンソラの新作。監督が『スターレック』でも組んだ脚本家ヤルモ・プスカラとフィンランド式サウナで汗を流していると、ヤルモがいきなり「ナチスが月から攻めてくる夢を見た」と言いだして大盛り上がり。そのままの勢いで実際に映画にしてしまったというバカ映画だ。ストーリーはハチャメチャだが、特撮シーンはしっかりしていて一見の価値あり。出演している俳優もベテランや中堅どころをずらりと揃え、物語のスケールに負けない厚味になっている。ストーリーが薄っぺらでも、俳優の力でそこに厚味を加えているわけだ。月に築いたナチス帝国の総統を演じるのは、ドイツのカルト俳優ウド・キアー。この役などは無名の俳優が演じれば目も当てられないほどオバカなキャラなのだが、ウド・キアーが演じれば見ていられる内容になる。リアリティがあるかと言えば皆無だが、こうしたキャラクターの存在感はリアリティだけではないのだ。

 スペクタクルシーンはハリウッド映画に負けない迫力だが、それ以外のドラマ部分はテレビのバラエティ番組でお笑いタレントが出演するコントに近いノリ。この落差が面白いと言えば面白いわけだが、正直なことを言えば、僕はどうしてもそこで一度テンションが下がってしまう。このコントも物凄く風刺が効いているとか、マニアックであるとか、特殊な売りがあればまた違ってくるのだろうが、ギャグの中身は玉石混淆でしかも散発的。もっと矢継ぎ早に次々とギャグを繰り出して、ストーリーの薄さをギャグの密度で補ってほしかった。この映画は1時間半ほどで決して長いわけではないのだが、テンポがスローモーでそれよりずっと長く感じる。これがフィンランド映画のテンポなのだろうか。そういや、フィンランドはアキ・カウリスマキの国だなぁ……。

(原題:Iron Sky)

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9月28日公開予定 新宿武蔵野館、TOHOシネマズ渋谷ほか全国ロードショー
配給・宣伝:プレシディオ
2012年|1時間33分|フィンランド、ドイツ、オーストラリア|カラー|スコープサイズ|DCP|5.1ch
関連ホームページ:http://gacchi.jp/movies/iron-sky/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
関連DVD:スターレック 皇帝の侵略
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