最強のふたり

2012/08/09 シネマート六本木(スクリーン4)
全身麻痺の大富豪を介護するのはスラム街の黒人青年だった。
実話をもとにしたヒューマンドラマ。by K. Hattori

Saikyo2  失業手当ての給付を受けるため、介護士の仕事の面接に出かけた青年ドリス。そこでは事故で全身麻痺になっている大富豪フィリップが、新しい看護人を探すための求人面接を行っていたのだ。失業手当が目当てのドリスは最初から面接に通ることなど求めていないのだが、その不遜で横柄な態度を面白く思ったフィリップは、気まぐれに彼を雇うことにする。意外なことに驚くドリスだが、仕事の待遇は悪くない。こうしてスラム街に育った黒人移民の青年と、貴族の末裔である初老の大富豪の奇妙な交流が始まった。

 実話をもとにしたフランス映画で、本国では記録的な大ヒットとなった作品。フランス本国ではセザール賞で9部門にノミネートされて1部門で受賞したが(オマール・シーが主演男優賞)、昨年東京国際映画祭のコンペ部門に出品されて、最優秀賞である東京サクラグランプリを受賞したほか、主演ふたりが主演男優賞を獲得している。

 映画の世界では、性格も見た目も正反対な凸凹コンビを主人公にする物語が数え切れないほど作られている。男と女。大富豪と貧乏人。白人と黒人。ずぼらな性格と几帳面な性格。この映画もそうした系譜の中にある作品だ。主人公のひとりであるフィリップは、白人で大富豪、結婚して子供がいて、趣味はクラシック音楽の鑑賞と文通で、性格は几帳面で気難しくて、さらに全身麻痺の障害者だ。もうひとりの主人公ドリスは、黒人で無職の貧乏人、大家族の出身だが独身、聴いている音楽はロックで、性格は楽天家のお調子者、身体的にはきわめて健康。実話をもとにしているとは思えないほど、主人公たちの凸凹ぶりが絵になっている。この映画の製作者たちは、じつに映画的な素材を見つけてきたものだと感心するしかない。

 だが主人公たちが白人と黒人のコンビになっているのは、映画的な脚色だ。モデルとなった大富豪と介護人は実際はどちらも白人だったそうだが、映画では主人公たちの立場の違いをより強調するためにドリスを黒人にたのだろう。これは作劇術としては成功していると思う。思い切った脚色だが、上手いものだ。しかし僕はここに、黒人移民に対する差別のようなものを感じてしまう。黒人は貧しい。黒人は柄が悪い。黒人は享楽的で楽天的。ドリスがパーティ会場でダンスをする場面などは、「黒人はダンスが上手い」というステレオタイプなのではないだろうか。映画の中ではドリスの家庭事情も細やかに描写されているし、何よりその人物像が立体的に生き生きとリアルに描かれている。作り手に悪意はあるまい。この映画はいい映画だ。しかし僕はここに何かしら、釈然としないものを感じてしまうのだ。

 映画の中では大富豪の暮らしぶりが事細かに描かれているが、あまりにも贅沢すぎる生活はまるでファンタジー。中でも一番贅沢なのは、生のオーケストラに次々名曲のさわりを演奏させる場面だ。

(原題:Intouchables)

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9月1日公開予定 TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、新宿武蔵野館
配給:GAGA
2011年|1時間52分|フランス|カラー|1.85:1|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://saikyo-2.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:セカンドウィンド
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