乃南アサの同名小説を、韓国で映画化したサスペンス・ミステリー映画。バツイチの女性刑事が離婚歴のある女嫌いの中年刑事と組んで、大型犬がからんだ連続殺人事件の捜査にあたる。同じ原作は日本でも2度ドラマ化されているので、今回が3度目の映像化だ。2001年にはヒロインを天海祐希、相棒の中年刑事を大地康雄が演じてNHKでドラマ化された。2010年にはテレビ朝日系列で、ヒロインを木村佳乃、相棒刑事を橋爪功が演じる形でドラマ化されている。
「凍える牙」の原作は未読だが、これは女性刑事の音道貴子が活躍するシリーズの1作目であり、ドラマ版の配役を見てもヒロインの側が主役で、相棒刑事はそれをサポートする位置づけなのだと思う。しかし今回の韓国映画版では、ヒロインをイ・ナヨン、中年刑事をソン・ガンホに演じさせることで、その位置関係のバランスが男性側中心にシフトしている。イ・ナヨンはこの映画のためにバイクの免許を取得するなど役作りに力を入れているようだが、映画の中でよりキャラクターが掘り下げられているのはソン・ガンホの中年刑事だろう。これは彼の役作りの成果でもあろうが、そもそも脚本の上でも中年刑事の方がより複雑なキャラクターとして描かれているのだ。
中年刑事のサンギルはふて腐れていた。昼夜を問わず必死に仕事をしても出世からは見放されている上、女房にも逃げられ、残された子供たちとの関係も悪化している。新たにあてがわれた仕事は、ソウル市内で見つかった変死体の身元探しと、配属されてきたばかりの女性刑事ウニョンの教育係だ。他の刑事たちがより重要な事件捜査で飛び回っているというのに、これでは自分だけがのけ者にされているようなものだ。だが発見された変死体がどうやら殺人事件の被害者らしいと知って、サンギルは俄然やる気を出し始める。ここで点数を上げれば出世の糸口になりそうだ。彼はウニョンにも口止めして、独自捜査で事件の真相を探り出す。変死体の正体は、少女たちを薬漬けにして働かせる売春クラブの関係者だった。やがて新たな事件が発生する。今回の被害者は大型犬に襲われて噛み殺されたのだ。ふたつの事件は結びつけられて、サンギルの秘密捜査も上司にばれてしまった。サンギルは上司から逃げた犬の捜索という地味な仕事を割り当てられ、またしてもふて腐れることになるのだが……。
あらすじを書いていてもこの映画が中年刑事サンギル中心に動いていることがわかるのだが、これは脚本執筆中にサンギル役にソン・ガンホの出演が決まり、監督が韓国を代表するスター俳優向けにキャラクターを膨らませたのだという。女性刑事ウニョンはハ・ジウォンを想定して脚本を書いていたが、イ・ナヨンになったのだという。監督がもともと想定していたキャスティングがすんなり実現していれば、この映画はヒロイン中心のものになっていたのかもしれない。
(英題:Howling)
原作:凍える牙(乃南アサ)
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