勤めていた会社が潰れて失業すると同時に、離婚して妻にも去られるという私生活上のダブルパンチを食らった佐々木は、ほとんど身ひとつの状態で東京を脱出する。目指すは南の島。沖縄も通り越してさらに西に進んだ、八重山諸島の西表島だ。国道の行き止まりから原生林を分け入ると、突然目の前に真っ白な砂浜と青い海が広がる。すっかり開放感にひたる佐々木は、そこで浜に暮らす4人のホームレスと知り合いになる。自然と共生したかのように自由自在に暮らす4人にすっかり魅了され、彼らと共に浜で暮らし始めた佐々木。しかしある晩、宴会ですっかり酔っ払って翌朝目覚めると、浜はもぬけの空で、佐々木の荷物もすべて消えていた。ホームレスたちに荷物を盗まれたのだ。信頼していた男たちに裏切られ、絶望的な気分になる佐々木。しかしそんな佐々木のいる浜に、東京から休暇で島を訪れた青年オッコチがやって来る。佐々木はあわよくばオッコチの荷物を盗もうとするのだが……。
椎名誠の同名小説を映画化。主演は安部サダヲ。彼を慕う青年オッコチに永山絢斗。後から彼らに合流して浜で暮らし始めるアパとキミに、貫地谷しほりと佐々木希。佐々木を騙すホームレスも、ピエール瀧や斉木しげるといった癖のある面々で、大自然を背景にして結構分厚い俳優たちのアンサンブルが楽しめる作品になっている。監督・脚本は「大人計画」の細川徹で、これが映画監督デビュー作だ。
配役は豪華で演じられている芝居にも安定感があるが、西表島の風景がまったく板に付いていない感じは伝わってくる。しかしこの舞台から浮いちゃってる感じこそ、この映画の狙いだろう。この映画に登場する人間たちは、風景の一部のように描かれるごく一部の地元の人たちを除けば、すべて外部から来たヨソ者たちなのだ。ヨソ者たちが借り物の舞台に作り上げる、夢のようなパラダイス。それがこの映画の世界だ。そこは西表島には違いないが、映画を観ているだけでも、それが現実の西表島とは別次元の世界だということがわかる。
この映画はまるで小学生の男の子が思い描く、南の島での冒険だ。そこにはセックスの要素がない。病気がない。お金がなくても困らない。大雨も嵐もない。山の幸と海の幸に恵まれた島で、基本的には自給自足の生活をして、ナイフ1本で生活に必要な道具を作り出す。外敵に備えて秘密基地を作り、石油ランプを灯し、落とし穴を掘り、敵の基地に攻め込み、最後は巨大なイカダで外洋へと乗り出して行くのだ。これは男の子の夢の世界だから、リアリティなんてなくて構わない。それをバカバカしいと思えば、これは大人の男たちが無邪気に浮かれ騒ぐだけのナンセンスな話だろう。しかし僕はこの映画を観ながら、遠い昔、空き地や公演や橋の下や物置小屋などで基地を作って遊んだ子供時代を思い出してしまった。こんな風に無邪気に童心に帰れたら、どれほど楽しいだろうか。
DVD:ぱいかじ南海作戦
原作:ぱいかじ南海作戦(椎名誠) |