スープ

〜生まれ変わりの物語〜

2012/05/17 TCC試写室
あの世に行ってスープを飲めば記憶を無くして生まれ変わる?
生瀬勝久の単独初主演映画。by K. Hattori

Soup  インテリア・デザイン会社で営業をしている渋谷健一は、2年前に妻と離婚し、今は中学生の娘・美加と二人暮らし。だが美加との関係はぎくしゃくしていて、最近はろくに会話もしていない。美加の15歳の誕生日、美加は友人と二人で万引き事件を起こし、このことがきっかけで父娘の関係に決定的な亀裂が生まれてしまう。だがその翌日、年下の女性上司・綾瀬由美と地方出張に出かけた渋谷は落雷事故に遭い、由美と一緒に命を落としてしまう。気がついた「あの世」で気がかりなのは、前世にひとり残してきた娘の美加の行く末だ。娘のところに戻りたい。娘がどう生きていくかを見守りたい。そう思い詰める渋谷は、「記憶をなくさないまま何度も生まれ変わった人がいる」という噂を聞いて、その相手に会いに行くのだった……。

 スピリチュアル系のジャーナリストである森田健が中国奥地に実在する村で取材した聞き書きノンフィクション「生まれ変わりの村」をもとに、大塚祐吉が脚本を書き監督した作品。大塚監督は以前観た『Girls Life』(09)がなかなか痛快な作品だったが、今回の映画も『Girls Life』の太代眞裕プロデューサーとのコンビ作。次回作も同じコンビで新作を準備中とのことで、これはちょっと楽しみかもしれない。

 映画は2時間ほどだが、死んであの世に行くまでが30分、あの世が30分、生まれ変わってからが30分ぐらいの時間配分。文字通り浮き世離れしたあの世の描写の合間に、父親を失った美加が直面する過酷な世界の様子がしっかりと描かれているのがいい。また渋谷がこの世に生まれ変わっても、中学生になって思春期を迎える頃までは前世の記憶が甦らず、結果として娘を見守ることも何もできないという設定も残酷だ。結局主人公の渋谷は娘を見守るという当初の目的を果たせない。しかし娘と和解することはできる。この和解シーンは感動的で、映画を観ていてホロリとさせられてしまうのだ。このシーンにカタルシスや達成感があるということは、主人公にとって生まれ変わるための目的は、最初から娘との和解にあったということなのかもしれない。

 映画終盤は生まれ変わった主人公が再び中学生になって登場するが、ここまでは物語はほとんど「あの世」だったので、時間という概念がほとんどない。主人公の周囲で時間が再び動き始める終盤はそれだけでワクワクするような楽しさがあり、しかもそこで主人公たちが繰り広げる「青春ドラマ」の面白さには、それまでの重苦しいムードを一気に打ち消すだけのパワーがある。生まれ変わった渋谷を演じる野村周平も上手いが、強烈な印象を残すのは広瀬アリスだろう。彼女がどんな役柄で登場するかは映画を観てのお楽しみ。この映画における彼女の存在感は破格で、このキャラクターの存在なしには映画の印象はまるで違ったものになっていたであろうと断言できる。

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7月7日公開予定 有楽町スバル座ほか
配給:東京テアトル 宣伝:太秦、TOブックス
2012年|1時間58分|日本|カラー|シネマスコープ
関連ホームページ:http://www.soup-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:生まれ変わりの村(森田健)
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