私が、生きる肌

2012/04/18 アスミック・エース試写室
天才外科医が自宅に監禁している美女の正体とは?
アルモドバル&バンデラスのコンビ作。by K. Hattori

Watashigaikiruhada  ペドロ・アルモドバルとアントニオ・バンデラスが22年ぶりにコンビを組んだ、愛と欲望と倒錯のサスペンス。もっとも僕はバンデラスのアルモドバル時代を知らない。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(1987)や『アタメ』(1989)などを観る機会がなかったわけではないのだが、結局観ないまま、気づいたらバンデラスはハリウッドでトム・ハンクスの恋人になっていた(映画『フィラデルフィア』1993)。というわけで、僕はこの映画でバンデラスがアルモドバル作品に出演したことそのものに、さしたる感慨を抱くことがない。しかしこの映画は主演がバンデラスだからこそ、この奇妙な味わいが出ているのは確かだと思う。主人公ロベル・レガルはとんでもない犯罪者でマッドサイエンティストだが、それをバンデラスが演じることで、観客は否応なしに彼に漠然とした好意を持ち、その行動にいちいち共感しようと努めることになるのだ。

 スペインのトレド郊外に住む外科医ロベル・レガルは、最新のバイオテクノロジーを駆使して開発された人工皮膚の世界的な権威だ。だが彼には世間に公表されていないもうひとつの顔がある。自宅2階の一室に監禁されている女性ベラは何者なのか? 自宅内にある研究施設兼施術室で、彼は一体何を行っているのか? ブラジルからやって来たひとりの男の出現をきっかけに、ロベルとベラの距離は急速に接近して行く。だがそれは、破滅に向けたカウントダウンの始まりでもあった。

 物語は3部構成になっていて、第1部は現代のトレドが舞台、第2部は6年前に起きた事件によってベラがロベルの屋敷に監禁される経緯を描き、第3部は再び物語が現代に戻ってロベルとベラのいびつな関係に決着が付けられる。映画全体で物語をリードしていくのはロベルだが、第2部の途中から観客はベラの側に徐々に感情移入していくことだろう。謎の美女に秘められた驚くべき過去。こんな奇想天外な話は見たことも聞いたこともないが、観客は第1部の終盤から少しずつ小出しに、ロベルの驚くべき正体を知らされていくことになる。彼は冷血な殺人者であり、フランケンシュタイン博士であり、めとった妻を次々殺していく青ひげなのだ。だがこの青ひげをバンデラスが演じることで、犯罪的な行為を糾弾する気がそがれてしまう。

 ストーリーの中には、新約聖書の「放蕩息子の喩え」が二重に組み込まれている。映画前半にあるブラジルからやってきたセカの物語と、映画後半にあるベラの物語だ。しかしアルモドバルはこれをかなり歪めて引用し、家に戻ってきた放蕩息子に原話とはまったく違った行動と結末を用意してみせる。その後も出口のないまま血なまぐさい結末を迎える映画だが、それでもラストシーンがハッピーエンドに見えるのは、誰もが知っている古い物語の中にベラの物語が回収された結果だろう。これは家族についての古い物語なのだ。

(原題:La piel que habito)

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5月26日公開予定 TOHOシネマズシャンテ、シネマライズ
配給:ブロードメディア・スタジオ 宣伝:スキップ
2011年|2時間|スペイン|カラー|アメリカンビスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.theskinilivein-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:La Piel Que Habito
原作:私が、生きる肌(ティエリー・ジョンケ)
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