どんずまり便器

2012/04/09 サンプルDVD
弟の彼女に嫌がらせをする乱暴な姉が胸に秘めた純情。
難しいヒロインを菜葉菜が好演。by K. Hattori

Donzumari  日活芸術学院からENBUゼミを経て、自ら映像集団トラウマサーカスを立ち上げた小栗はるひ監督の長編デビュー作。幼い頃に両親を失いふたりきりとなった姉妹の、歪んで研ぎ澄まされた愛憎関係を描く。

 ナルミと圭の両親はふたりが幼い頃に亡くなり、高校生になる頃から姉弟はふたりきりで両親のいなくなった家に暮らしていた。勤め先で傷害事件を起こしたナルミは、刑務所を出て弟が暮らす家に戻る。だがそこにいたのは弟の圭だけではく、弟の恋人カナも同居していたのだ。これが気にくわないナルミは、カナにあれこれ難癖を付け、ついには弟との禁断の関係について口にする。そのことに衝撃を受けるカナだが、圭は姉の言葉を完全に否定。しかしナルミが戻って来てから、圭とカナの関係はまるでうまく行っていない。やがて圭を残してカナは家を出て行ってしまう。恋人を追い出し、仕事もせずぶらぶらしているナルミに、圭はいら立ちを募らせるのだが……。

 予告編などから主人公たち姉弟の近親相姦を扱った映画にも思えるのだが、この映画はそう一筋縄ではいかなかった。主人公たちの関係に近親相姦的なムードが濃厚に漂っているのは事実だが、これを近親相姦だと言うことはできない。しかし近親相姦に限りなく近くまで肉薄しながらそこに到達していないがゆえに、かえって映画の中に描かれる近親相姦タブーはくっきりとした輪郭を持って物語に立ち上がってくる。

 映画は主人公たちの過去を秘密にすることなく、比較的早い段階で観客の前に提示してしまう。高校教師だった島田とのからみで後から出てくる話題もあるが、そこで観客に明かされる事柄によって、物語が大きく屈折して行くことはない。この過去は登場人物たちにとって周知の事実であり、単に観客に対して始めて明かされるというだけのことでしかないからだ。ナルミと圭の過去を小出しに提示して行くスタイルは、この映画の中でミステリーとしての引きを生み出さない。それよりも物語の大きな推進力になるのは、物語がどこに着地するのかというサスペンスだ。漂流し続けるナルミは、どこにたどり着くのか。圭とカナの関係はどうなるのか。

 こうしたドロドロ人間ドラマの場合、隠されていた過去が明らかになったことがカタルシスとなり、物語に新しい別の局面が現れることが多いのだが、この映画にそれはない。カタルシスを得られないまま物語は進行し、行き詰まった関係性の出口を求めて登場人物たちはもがき続ける。だがその出口は見つからない。まさに「どんずまり」なのだ。

 ナルミを演じた菜葉菜が、いつもふて腐れて、不機嫌で、怒っていて、当たり散らす、手の付けられないヒロインを好演している。こんなデタラメなヒロインなのに映画を観ていて引き込まれてしまうのは、彼女が最後まで決して汚されない純なところを持ち合わせているからだと思う。

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4月14日公開予定 ユーロスペース
配給:イマージュ エクスプロ
2011年|1時間21分|日本|カラー|HD
関連ホームページ:http://movie.geocities.jp/torauma_donzumari/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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