キリング・ショット

2012/03/02 シネマート六本木(スクリーン3)
深夜のダイナーで突如起きた強盗事件から始まるサスペンス映画。
これは物語より語り口に面白さがある。by K. Hattori

Killingshot  郊外の街道沿いにある寂れたダイナー。客も途切れた真夜中になって、ボックス席にいた3人の若い女が突然銃を取り出して店員と客に突きつける。一体彼女たちは何者で、何の目的でこんな小さな店を襲わなければならないのか? 話は前日の朝にさかのぼる……。

 映画は3人組女子強盗団のリーダーであるテスを主人公にして、ダイナー強盗に至る過去の経緯と、ダイナー強盗のその後を交互に描いていく。映画の冒頭でいきなり物語のクライマックスを見せ、その後そこに至る過去を描いて映画冒頭のシーンまで戻り、さらにその続きを描いていくという形式の映画はよくあるが、この映画はもう少し凝った構成になっている。ダイナー強盗というクライマックスシーンを少しずつ小出しに進行させながら、そこに至る過去の経緯をこれまた小出しに見せていくのだ。ふたつの時間はやがてダイナーの中で合流し、その後の結末まで流れていく。語り口にはひねりがあるが、これも古典的なマヅルカ形式のバリエーションだろう。

 映画の中で物語を引っ張るのは、ミステリーとサスペンスだ。観客に「これは何だろうか?」と思わせるのがミステリーで、「早くこの結果を知りたい!」と思わせるのがサスペンス。この映画はその両者のバランスがとても上手い。話そのものよりも、この語り口の上手さで観客を映画冒頭からラストまで引っ張り回しているようにも思える。この映画には作り手の主義主張らしいものもなければ、ストーリーの核になるユニークなモチーフがあるようにも思えない。見えてくるのは卓越したテクニックだ。話を二の次にして語りのテクニックだけで観客をその気にさせる映画ジャンルにホラーがあるが、本作のアーロン・ハーヴェイ監督は2007年に『The Evil Woods』(未公開)という超低予算ホラー映画でデビューして、今回の映画が2作目。ただし今回の映画は犯罪組織のボス役にブルース・ウィリス、ヒロインを追う謎めいた男にフォレスト・ウィテカー、ヒロイン役には『ウォッチメン』のマリン・アッカーマンという豪華なキャストになっている。

 映画の語り手はヒロインのテスだが、物語全体を牛耳って動かしているのはフォレスト・ウィテカー扮する謎の男だ。ウィテカーは『ラストキング・オブ・スコットランド』でアカデミー主演男優賞を受賞している本格俳優なのに、こういう映画でこういう役をやってのける。映画の中でこの人物は最後まで行動の動機がつかめない謎めいた男で、言動を見れば狂気そのもの。これを下手くそな俳優が演じれば、この男は単なる狂気のストーカーか何かということになるのかもしれない。ところがフォレスト・ウィテカーがそれを、奇妙なリアリティを持つ役柄に造形している。支離滅裂で脈絡がないすべての行動が、この男の内部では一貫性を持った合理的な行動になっているらしいのだ。狂気の中の合理性。これが恐い。

(原題:Catch .44)

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4月7日公開予定 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
配給:プレシディオ 宣伝:スキップ
2011年|1時間34分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|DCP
関連ホームページ:http://gacchi.jp/movies/killing-shot/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD & Blu-ray:Catch .44
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