トガニ

幼き瞳の告発

2012/02/29 東映第2試写室
2005年に発覚した聾学校職員による性的虐待事件の映画化。
韓国社会を動かした社会派の問題作。by K. Hattori

Togani  画家を目指しながら生活のため聾学校の美術教師になったカン・イノは、学校内で生徒に対する過酷な体罰が日常的に行われていることに驚く。だがそれから間もなくして、カンは想像だにしない衝撃的な事実を知らされることになる。学校内で、校長らによる生徒に対する性的虐待が行われているというのだ。一部生徒に対する度を超した体罰は、その口封じのために行われていたのだ。カンは町の人権団体職員にこの事実を告発するが、自分が表に立てば職を失って家族は路頭に迷ってしまう。学校側も最初からそれを承知で、事件が表沙汰にはならないと高をくくっているのだ。だが目の前でこれ見よがしに行われる虐待に怒りを抑えられなくなったカンは、子供たちを守るため自らが矢面に立つことを決意。役所も警察も動いてくれないと知ると、マスコミを使って真相を社会に暴露することにする。ようやく動き出した警察と検察。校長たちは逮捕されるが、ここから長く辛く理不尽な裁判闘争が始まるのだった……。

 2005年に韓国で発覚した、養護学校教師による生徒虐待事件の顛末を映画化した作品。主演のコン・ユが軍に入隊中に原作を読み、映画化を切望して彼自身の提案で映画化されたものだという。正直に生きようとしながら、目の前で起きている不正を前にしたとき、自分自身の生活を考えて告発をためらってしまう弱い主人公。不正を告発した後も、法制度の不合理さや社会の不公平さの前に無力に打ちひしがれてしまう男。こうした映画では普通の男が事件をきっかけに強くなったり、成長したりするのが普通だと思うが、この映画の主人公は最後の最後まで強くなれないし成長もしない。ただひたすら目の前の対象に対して、誠実に、真面目に向き合おうとするのだが、そうした善意は世の現実の前に吹き飛ばされ、踏みにじられてしまうのだ。

 原題の『トガニ』は韓国語で「るつぼ」という意味。「るつぼ」というタイトルで思い出すのはアーサー・ミラーの同名戯曲で、これは17世紀末にマサチューセッツ州セイラムで起きた魔女裁判に取材した作品だった。(これをミラー本人が脚色し、ニコラス・ハイトナーが監督した『クルーシブル』という映画もある。)「るつぼ」と『トガニ』の共通点は、どちらも実話をもとにした作品だということ。隠されていた事件が明らかにされてから、物語の後半が長い裁判劇になること。裁判の中では証人たちが自分たちの保身のため、偽証を繰り返すことだ。アーサー・ミラーは1950年代当時の赤狩りを批判して「るつぼ」を執筆したが、それから半世紀たっても人間の本質は変わらない。人は保身のために平気で嘘をつき、弱いものが傷つき苦しめられ、法はそうした弱者を守らない。

 映画は悲劇的な幕切れとなるが、この映画は韓国で大ヒットしたことで、モデルになった聾学校は閉鎖されることになったという。

(英題:Silenced)

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8月4日公開予定 シネマライズ、新宿武蔵野館
配給:CJ Entertainment Japan
2011年|2時間5分|韓国|カラー|シネスコ
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:トガニ
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