ロサンゼルスでCMプランナーをしているジャックにとって、感謝祭は1年のうちでもっとも憂鬱なシーズン。ニューヨークでいまだ一人暮らしをしている双子の妹ジルがやってくるからだ。ジルは悪気のない無邪気な人間だが、無邪気すぎる態度が周囲を困惑させたりいら立たせたりすることがある。性格を一言でいえば大きな子供。自分の欲望に忠実で、周囲はお構いなしなのだ。しかしこれも数日の辛抱……と思ったら、ジルはジャックの家に長居を決め込むつもりらしい。しかもジャックは目下、仕事でも大きなピンチに見舞われている。大手クライアントのダンキンドーナツが、CMタレントとして大物俳優のアル・パチーノを連れてこなければ契約を打ち切ると言っているのだ。パチーノがひいきチームの応援に行くと聞いて、ジルと一緒にバスケットの試合会場に向かうジャック。だがそこで奇跡が起きる。なんとアル・パチーノが初対面のジルに一目惚れ。まるでその気のないジルをそっちのけに、ジャックはこれを材料にしてパチーノをCMに引っ張り出そうとたくみはじめる……。
ジャックとジルを一人二役で演じるのはアダム・サンドラーだが、このハチャメチャな兄妹に負けないハチャメチャ振りを発揮するのがアル・パチーノ。この映画の彼は長年役作りに没頭してきた結果、演じている役と自分自身の私生活の区別が付かなくなっている頭のおかしな老俳優。目下没頭しているのが出演依頼を受けた「ラ・マンチャの男」のドン・キホーテ役。例によって役と私生活の区別が付かなくなったパチーノは、巨漢のジルを貴婦人ドルシネア(ドン・キホーテの思い人)だと思い込んだ次第。この映画の中のアル・パチーノは頭のおかしな変人で、このぐらい思い切り誇張された人物を演じれば、俳優アル・パチーノのパブリックイメージも傷つかないということなのだろう。しかしそれでも時々、実際のアル・パチーノ本人の要素がスパイスとして紛れ込ませてあるのが面白い。自宅に招いたジルにオスカー像を壊され、「たくさん持っていると思うだろうが、じつはあれひとつきりなんだ」とぼやくシーンには大笑い。1992年の『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』で獲得したオスカーは、かくして粉々に砕け散ったのであった。
11月半ばから年末年始にかけてのホリデーシーズンを描いた映画だが、主人公の家庭がユダヤ系に設定されているのが面白い。ホリデーシーズンを舞台にした映画ではあるけれど、主人公一家はクリスマスを祝わない。同時期にユダヤ教のハヌカという祭りがあるのだが、主人公の家庭ではハヌキヤを飾るぐらいで特別なイベントはない様子。これが現在のアメリカにおける、ユダヤ系家庭のひとつの現実なのかもしれない。ジャックの部下が「僕はユダヤ人に近い。なぜなら無神論者だからだ」と言っているが、確かに生活態度を見るとそんな感じがなきにしもあらずだなぁ……。
(原題:Jack and Jill)
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