グッド・ドクター

【禁断のカルテ】

2012/01/10 京橋テアトル試写室
オーランド・ブルームが若い研修医を演じる医療サスペンス。
後半がもう少し盛り上がればなぁ。by K. Hattori

Good_doctor  オーランド・ブルームの主演作でなければ、劇場公開されずDVD市場に直行したであろう作品。いやそもそもブルームがいなければ、日本の映画会社がこの映画を買い付けてきたかどうかすら疑わしい。銀座シネパトスでの公開は、DVD発売前に「劇場公開作」にするためのアリバイ作りだろう。この映画は決してつまらないわけではないし、出来が悪いわけでもない。ひとりの青年の複雑な心理を描いたドラマとして、そこそこよくできている。しかしいかんせん、映画の印象は地味だ。映画館でわざわざ観ずとも、レンタルDVDを借りずとも、テレビ放送でたまたま視聴して「意外な拾いものだったな」と思うぐらいの映画なのではなかろうか。

 若い研修医が勤務先の病院内で孤立し、その心の隙間をひとりの若い女性患者の存在で埋めようとする物語だ。主人公のマーティンはその患者に好意を持つが、彼女に恋愛感情を抱いているわけではなさそうだ。病院内で看護師にまで新入りの若造扱いされている彼は、この若い患者が自分に寄せてくれる全幅の信頼感を心地よく感じる。彼女と接している時だけ、彼は「医者としての自分」に自信が持てるのだ。ベテラン看護師に意地悪されてビクビクしている彼が、彼女の前でなら堂々と振る舞える。人付き合いが苦手な彼も、彼女に対しては大人の男として余裕のある態度で話をすることができる。マーティンは彼女を必要とし、彼女の存在に依存し執着する。これも一種の愛ではあるのだろう。しかしこれは自己愛だ。彼は医者としての自分を肯定するための道具として、彼女を利用しているに過ぎない。

 主人公が「自分の患者」として彼女を私物化し、結果として殺してしまうまでは映画としてよくまとまっていると思う。しかしその後看護人に脅迫されるあたりからは、話に説得力がなくなってしまうように思う。女性患者の残した日記の中身が明らかにされないのだから、主人公が看護師をなぜ恐れなければならないのかがわからないのだ。死んだ患者は自分がマーティンに殺されるとは意識していないのだから、日記の中に自分を殺した犯人としてマーティンを名指しするはずがない。またマーティンと彼女の間に著しく不適切な関係があったとも言えず、仮にそのようなことが日記に書かれていたとしても「想像豊かな女子高生の作り話」としていくらでもごまかせてしまうだろう。いったい主人公は、日記の何を恐れていたのか?

 たぶん女性患者が死んだ後のマーティンの行動は、彼の罪の意識が生み出す疑心暗鬼によるものなのだろう。これは映画の終盤で刑事が現れると、一層はっきりしてくる。主人公は必要以上に狼狽し、慌てふためいて自滅の道をたどるのだ。しかし主人公が現実を離れて歪んだ現実の中を歩み始めるくだりが、映画を観ていてもわかりにくい。現実と非現実がまったく区別なくつなげる意図かもしれないが、映画としてのケレン味には欠けるのだ。

(原題:The Good Doctor)

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1月21日公開予定 銀座シネパトス
配給:日活
2010年|1時間37分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://good-dr.com/
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