ヤング≒アダルト

2011/12/20 パラマウント試写室
30代後半にして「運命の恋人」の奪還を目指す痛いヒロイン。
シャーリーズ・セロンが主人公を好演。by K. Hattori

Youngadult  メイビス・ゲイリーは37歳の作家。代表作はヤングアダルト向けの小説「花のハイスクール」シリーズだが、もともとオリジナルの作家は別にいて、彼女はTVドラマ化で人気が出た小説の続編を延々書き続けている裏方仕事をしているに過ぎない。しかしドラマも終わって作品も一段落。今はシリーズの最終話を書いているが、まるきり筆が進んでいない。そんな彼女に高校時代の恋人バディから、子供の誕生パーティに誘うメールが届く。ひょっとして彼は今でも自分に未練があるんだろうか? 彼女の脳裏には、輝かしかった高校時代の生活がよみがえる。これはきっと運命。自分は今こそバディと結ばれて、新しい生活のスタートを切るべきなのだ! バディだって今のつまらない生活に飽き飽きして、自分と一緒に新たな人生を歩みたいと思っているはずなのだ。メイビスは荷物をまとめると、バディを彼の妻子から救出すべく生まれ故郷の町に戻る。しかし彼女をそこで待っていたのは、思ってもみない辛辣な現実だった……。

 都会で暮らしている主人公が田舎町に迷い込み、その素朴な人情や時代遅れの暮らしに戸惑い数々のドタバタを起こす「スモールタウン・コメディ」という映画ジャンルがある。本作『ヤング≒アダルト』も、体裁としてはそのフォーマットをなぞっている。ただしこの映画は、田舎町を出たヒロインが都会で出世して(と本人は思っている)故郷に錦を飾るという体裁になっているから、形式としては木下恵介の『カルメン故郷に帰る』みたいな話だ。「わたしは都会ですっかり洗練されました」と胸を張るヒロインの振るまいが、素朴な田舎の暮らしとギャップを生み出して行くおかしさ。しかしこの映画には、その「おかしさ」が素直に笑いに結びつかない。ヒロインの勘違い振りがあまりにもリアルで、そのぶん痛々しく感じられてしまうからだ。

 ヒロインのメイビスは、30代後半、独身(バツイチ)、子なしで、都会(といってもミネアポリスだが)の暮らしを満喫しているフリーランスの作家(といってもゴーストだが)である。先行きは見えないものの、今のところは遊んだりオシャレを楽しんだりするに困らない程度の収入はあるし、きちんとオシャレとメイクをすれば男たちだって群がってくる美貌の持ち主。高校卒業後に飛び出した故郷の町では、同級生たちがダサイ仕事で生計を立てながら、同じ町の中で知り合った田舎者同士で結婚し、子供をゴロゴロ産んで育児に追われている。それはメイビスにとっては嫌悪すべき暮らしなのだが、故郷の人たちは逆にメイビスを蔑んだり憐れんだりするような目で見る。これは何だろうか。この両者の関係性のギャップは、どこかで見たことがあるぞ……。

 どんなに美人で仕事ができても、30歳代以上、未婚、子なしの3条件が揃った女は不幸という価値観。そう、これは酒井順子のベストセラー「負け犬の遠吠え」なのである。

(原題:Young Adult)

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2月25日公開予定 TOHOシネマズ シャンテ
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
2011年|1時間34分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|DTS、SRD、SDDS、SR(シアンダイ)
関連ホームページ:http://www.young-adult.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:Young Adult: Music From the Motion Picture
関連書籍:負け犬の遠吠え(酒井順子)
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