ドライヴ

2011/12/07 ショウゲート試写室
ライアン・ゴズリング主演のハードな犯罪スリラー映画。
詩情と凄惨な暴力の非情なコントラスト。by K. Hattori

Drive  1999年にデビュー作『プッシャー』(1996)が日本でも公開されている、デンマーク人監督ニコラス・ウィンディング・レフンの新作。この監督はデビュー作の『プッシャー』が評判になってコンスタントに作品を発表するようになり、この『ドライヴ』が長編8作目。しかし日本では『プッシャー』以外に紹介される作品がなく、これが2本目の劇場公開作となる。『プッシャー』はデンマーク映画だったが、今回はアメリカ映画。主演にライアン・ゴズリング、共演にキャリー・マリガンやロン・パールマンを迎えて、小粒ながらスパイスがたっぷり効いてエッジの立った作品に仕上がっている。監督は脚本も自分で書けるのだが、今回はジェイムズ・サリスの原作を『サハラに舞う羽根』や『シャンハイ』のホセイン・アミニが脚色している。

 ライアン・ゴズリング演じるドライバーは、表と裏の顔を持っている。表向きの仕事はシャノンの自動車修理工場で働く整備士であり、シャノンの紹介で映画やテレビドラマの製作現場でカースタントの仕事もしている。裏の顔は強盗犯御用達の逃走車専用ドライバーだ。彼は同じアパートに住むアイリーンと親しくなる。彼女の夫は刑務所に服役中で、残った子供と二人暮らし。間もなく彼女の夫スタンダードが出所してくるが、彼は刑務所の中で借金を作り、その返済を免除するかわりに質屋を襲う強盗に加われと誘われていた。これを知ったドライバーは、彼女と子供のためにスタンダードを助けることにする。大切なのは犯行現場から彼を速やかに逃走させ、家族のもとに戻してやることだ。しかしその現場で、思いがけないアクシデントが発生するのだった……。

 タイトルがタイトルなので最初から最後までカーチェイスたっぷりの映画だとばかり思っていたら、まったく予想を裏切ってくれたのは誤算。しかしこれは嬉しい誤算だった。これは夫と子供のいる女に惚れた主人公が、彼女を守るために命がけで戦う話。長谷川伸の『沓掛時次郎』や、西部劇『シェーン』の世界だ。スローモーションを多用した『ドライヴ』の映像は、一種の詩情をたたえていて美しい。しかしこの映画にあるのは『沓掛時次郎』や『シェーン』のようなファンタジーではない。血まみれの凄惨な暴力だ。義理人情やプラトニックな恋愛といったきれい事ではすまされない、むき出しの暴力衝動と殺意が、主人公を突き動かして行く。主人公が敵を倒すとき、武器らしい武器を何も身に着けていないことも、彼のケダモノじみた暴力性を強調することになる。チンピラをいきなり金槌で殴りつけるのも驚いたが、エレベーターの中での殺し屋との対決にも度肝を抜かれる。ライアン・ゴズリングが物静かな態度から突如相手に襲いかかる凶暴さを見せる様子は、アフリカのサバンナで暮らす大型肉食獣が、お昼寝状態から突然ハンティングと食事モードに入るようになめらかでスムーズだ。

(原題:Drive)

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2012年3月31日公開予定 新宿バルト9
配給:クロックワークス 宣伝:スキップ、寿
2011年|1時間40分|アメリカ|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.klockworx.com/movies/movie_275.html
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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