ロンドン・ブルバード

-LAST BODYGUARD-

2011/12/05 京橋テアトル試写室
刑務所から出た元ギャングが若い女優宅を警護することに。
主演はコリン・ファレルとキーラ・ナイトレイ。by K. Hattori

Londonboulevard  傷害罪で3年の監獄暮らしを味わったミッチェル。出所したら必ず堅気になろうと決心していたが、昔の仲間たちは彼を放っておいてくれない。昔からの友人のビリーに部屋を世話されたこともあり、付き合いで仕事を手伝わざるを得なくなってしまう。ビリーは彼をしきりにボスに会わせたがるが、ミッチェルにそこまで深入りする気はサラサラないのだ。そんな彼が探した堅気の仕事は、最近引きこもりがちでパパラッチに追われている有名女優宅で、雑用係とボディガードをすること。決して普通の仕事ではないが、少なくとも犯罪がらみじゃない。ところがギャングのボスはミッチェルの度胸と腕っ節に惚れ込んで、ぜひ自分の部下にと矢の催促。それを断るミッチェルを、ボスは強引な手段で仲間に誘い込もうとするのだった……。

 原作はケン・ブルーエンの小説「ロンドン・ブールヴァード」で、ムショから出た元ギャングが往年の大女優の屋敷で働くようになる話。下敷きになっているのはビリー・ワイルダーが1950年に発表した古典的名作『サンセット大通り』(原題は『Sunset Boulevard』)だが、物語を原題のロンドンに移し、女優宅に入り込む売れない脚本家をギャングに入れ替えたわけだ。映画はそれを『ディパーテッド』のウィリアム・モナハンが脚色監督ているのだが、女優の年齢を下げて主人公より年下にした。ところがこれでは、原型である『サンセット大通り』の面影が消えてしまうのだ。主人公のミッチェルをコリン・ファレルが小気味よく演じ、引退状態のスター女優をキーラ・ナイトレイが演じているが、あいにくこの映画はこのカップルのエピソードが弱すぎる。ギャングの世界の悪夢のような泥沼の修羅場に比べると、女優がパパラッチに追いかけられるなんてまるでおとぎ話だ。原作は未読だが、少なくとも『サンセット大通り』には女優の屋敷内を狂気が支配していた。この映画の女優宅は、それとはてんで比較にならない。僕はこの映画に描かれた「ロマンス」に、まったく納得が行かないのだ。

 それに比べると、ギャング映画のパートはよく出来ている。話そのものは「堅気になろうとしたヤクザが、昔の仲間を助けようとして(あるいは復讐のため)ヤクザ抗争の真っ直中に舞い戻っていく」という古風な装い。東映任侠映画や、デ・パルマの『カリートの道』みたいな世界だ。今回の映画では、主人公を昔の道に引き込むビリーを演じたベン・チャップリンが上手い。虚勢を張って生きている小心者で、大口を叩く割にはてんで意気地がない男。これと対比するように出てくるのが、レイ・ウィンストン演じるボスのギャント。病的なサディストで、表情ひとつ変えることなく、腕にとまった蚊を打つのと同じ感覚で人の命を奪える男。女優宅内でのエピソードは干からびたパンのように魅力がないが、こちらは肉汁したたるレアステーキだ。

(原題:London Boulevard)

Tweet
12月17日公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷、銀座シネパトス
配給:日活 宣伝:フリーマン・オフィス
2010年|1時間44分|イギリス|カラー|アメリカンビスタ|SDDS、DTS、Dolby Digital
関連ホームページ:http://www.london-boulevard-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:ロンドン・ブールヴァード(ケン・ブルーエン)
ホームページ
ホームページへ