運命の子

Sacrifice

2011/11/22 角川映画試写室
中国古代史に材を採った「趙氏孤児」をチェン・カイコーが映画化。
悪役の屠岸賈が人間味あふれる人物に。by K. Hattori

Unmeinoko  古代中国にあった趙(ちょう)は、紀元前228年に秦に滅ぼされるまで、戦国七雄と呼ばれる有力国のひとつだった。趙氏はもともと晋の家臣として栄え、国政を司る六卿に任ぜられていた。やがて晋の勢力は衰えると、趙氏は紀元前403年に晋の領土を分割する形で趙という国を建てたのだ。しかし趙氏はその200年ほど前、一度は歴史から完全に消え去りそうになったことがある。趙氏が晋の大臣だったころ、その繁栄を妬む大臣・屠岸賈(とがんこ)によって、当主の趙朔(ちょうさく)はじめ一族は皆殺しにされたのだ。このとき趙朔の妻は子供を身ごもっていたが、生み落とされた子供・趙武(ちょうぶ)は友人たちの手を借りて難を逃れ、15年後に屠岸賈に復讐を果たして趙家を再興し、再び晋の大臣に返り咲いたのだ。

 チェン・カイコー監督の新作『運命の子 Sacrifice』は、古代中国の歴史書として高名な司馬遷の「史記」を原作に、屠岸賈による趙氏虐殺と、生き残った孤児が育ての親の助けを借りて復讐を果たすまでを描く歴史ドラマだ。この映画の特徴は、生き延びた趙武を育てた程嬰(ていえい)を主人公に据え、悪役である屠岸賈の人物像を大きく膨らませて、物語を子供を巡る「ふたりの父」の対決という構成にしたことだ。しかしこれには賛否両論あると思う。

 何より問題なのは、これがひどく不自然なことだろう。程嬰が趙武(程嬰の息子程勃だと偽っている)と共に屠岸賈に仕官するという行動も突飛なら、それを受け入れてしまう屠岸賈の行動も奇妙だ。彼は程嬰の息子を殺したことを知らないが、少なくとも程嬰の妻を殺していることは十分自覚しているからだ。「あなたは私の妻を奪い子から母を奪ったのだから、我々を養う義務がある」というのが程嬰の言い分だが、医者として屠岸賈の側にいれば、彼を人知れず毒殺する方法などいくらでもありそうではないか。(屠岸賈は主君を毒殺しているわけだし。)家庭に恵まれず子供も孫もいない屠岸賈に趙武を懐かせ、たっぷりと情が移ったところで趙武に名乗りを上げさせて復讐を遂げるというのも回りくどすぎる。屠岸賈が趙武を可愛がるのに合わせて、趙武もまた屠岸賈を「父上」と呼んで慕うのだ。趙武に殺される屠岸賈は苦しむかもしれないが、屠岸賈を殺す趙武もまた苦しむことになるだろう。映画後半はそこでスリルとサスペンスが生まれるわけだが、これはハラハラドキドキというより、ただもうじれったく、やきもきさせられるという面が強い。

 しかしこの映画の屠岸賈は魅力的だ。演じているワン・シュエチーが、貫禄たっぷりに古代の大物政治家になりきっている。王の暗殺や政敵の粛清、赤ん坊殺しといった冷酷非道な部分が、むしろ屠岸賈という人物の持つ人間味になっている。今後「趙氏孤児」を脚色する人は、この映画の存在を無視することが出来ないはずだ。

(原題:趙氏孤児 Sacrifice)

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12月23日公開予定 Bunkamuraル・シネマ
配給:角川映画
2010年|2時間8分|中国|カラー|スコープサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.unmeinoko.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:運命の子 Sacrifice
ノベライズ:運命の子
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