スマグラー

おまえの未来を運べ

2011/09/29 WB試写室
借金返済のため危険なバイトに駆り出された青年。
暴力シーンに笑ってしまう。by K. Hattori

Smuggler  学校を出た後一度は役者を目指したものの、芽が出ないまま夢を諦め、何となく日々を過ごしている砧涼介25歳。何となく誘われるままに違法パチンコで300万円の借金を背負った砧は、何となく連れ込まれた金融屋の山岡に金を融通してもらうのと引き替えに、何となく日給5万円のアルバイトを世話される。しかしそれは何となく生きてきた砧の日常がひっくり返る、地獄のような体験の幕開けだった。バイトの内容は運送屋。だが運んでいるのは、背中にモンモンの入ったヤクザの首無し死体だったのだ。その頃、組長が行方不明になって大騒ぎになっていた田沼組の本部に、切断された組長の首が送りつけられてくる。組長の仇討ちを誓う組員たちは、裏事情に詳しい金融屋の山岡に組長殺しの犯人探しを命じる。山岡は組織の内通者を使って殺し屋コンビの背骨を捕らえ、砧がバイトしている運送屋を使って田沼組本部に送りつけようとするのだが……。

 「闇金ウシジマくん」の真鍋昌平が2000年に発表したコミック「スマグラー」を、『鮫肌男とも桃尻女』『茶の味』の石井克人が脚色監督したバイオレンス映画。主人公の砧涼介に妻夫木聡、運送屋のリーダー花園丈に永瀬正敏、同行するジジイに我修院達也、仕事の依頼人である金融屋の山岡に松雪泰子という顔ぶれ。田沼組長が島田洋八、若い未亡人に満島ひかり、組の幹部に小日向文世と高島政宏、殺し屋の背骨を安藤政信が演じている。映画の導入部にある背骨と内臓による田沼組長殺害シーンから、映画終盤にある壮絶な拷問シーンまで、映画は血と汗と涙と体液がこれでもかと飛び散るバイオレンス描写の連続。しかし石井監督はそれを容赦なく残酷に描きながら、ユーモアたっぷりのシーンに仕上げていく。この映画には最初から最後まで大小のギャグが詰め込まれているのだが、それはほとんど凄惨な暴力シーンの中に散りばめられているのだ。

 原作は10年以上前に書かれたものだが、学校を出た後に何をするでもなくダラダラと生きている青年が、突然闇商売に引っ張り込まれるという状況設定には結構リアリティがあると思う。これはひょっとすると、10年前ならリアルだと感じなかったかもしれない。でもこの10年の間に、闇サイト殺人事件もあれば、秋葉原通り魔事件も起きている。ごく普通の日常のすぐ隣に、ドロドロとした黒い何かがうごめいていることを肌で感じているのだ。ただし映画は原作と同じ10年ほど前の世界が舞台なので、携帯電話と同時にポケベルが出てきたりする。それ以外に映画の内容と現代風俗の極端なギャップはあまりないのだが、こうして所々に出てくる時代の距離感が、映画のバイオレンス描写を和らげるクッションとして作用する。

 何者でもない若者が、何者でもない状態から抜け出すための通過儀礼を受ける物語。これはこれで純度の高い、バリバリの青春映画である。

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10月22日公開予定 新宿バルト9
配給:ワーナー・ブラザース映画 宣伝:る・ひまわり、T-Basic
2011年|1時間54分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.smuggler.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:スマグラー おまえの未来を運べ
サントラCD:スマグラー おまえの未来を運べ
主題歌CD:愛をくらえ(Superfly)
原作:新装版 スマグラー(真鍋昌平)
関連DVD:石井克人監督
関連DVD:妻夫木聡
関連DVD:永瀬正敏
関連DVD:松雪泰子
関連DVD:満島ひかり
関連DVD:安藤政信
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