奇跡

2011/05/26 GAGA試写室(シネマート六本木)
九州新幹線の一番列車がすれ違うとき奇跡が起きる!
主演のまえだまえだが素晴らしい。by K. Hattori

Kiseki_2  『誰も知らない』の是枝裕和監督が、小学生兄弟漫才コンビ「まえだまえだ」の前田航基と前田旺志郎主演で作った新作映画。まだ思春期を迎える前の少年が、子供からほんの少しだけ大人に成長する瞬間を描いている。映画のカテゴリーとしては、何度も映画化された『路傍の石』や『次郎物語』、あるいは『スタンド・バイ・ミー』や『鉄塔 武蔵野線』などの系譜を引き継ぐものだと思うが、出演している「まえだまえだ」の個性もあって、映画の印象はじつに明るくてユーモアたっぷりだ。両親の離婚は子供にとって大きな事件だし、家族が離ればなれになって暮らさねばならないのも辛い。それでも子供は「今この時」を全力で生きている。その生き生きとした生命力のほとばしりが、この映画の魅力だ。

 主人公の小学生兄弟周辺の大人たちとして、大塚寧々、オダギリジョー、樹木希林、橋爪功、夏川結衣、阿部寛、長澤まさみ、原田芳雄といった豪華な顔ぶれが並んでいるが、主演の前田兄弟がこうした大物たちにまったく負けていないのがすごい。名子役が大人の役者と演技で火花を散らすというわけではなく、子供がそのまま映画の中で放し飼いになっているのに合わせて、大人たちが応対しているような感じ。大人の俳優たちがしっかりと「演技」の尻尾を引きずっているのに対して、子供たちの姿はひたすら「自然体」なのだ。『誰も知らない』もそうだったが、是枝監督の子供扱い、子役演出の上手さはおそらく日本一なのではないだろうか。

 親の離婚で大阪から九州に引っ越した兄弟の物語。小学校6年生の兄・航一は母の実家の鹿児島に、4年生の弟・龍之介は父の故郷博多に引っ越して半年がたつ。博多と鹿児島は、間もなく九州新幹線で結ばれる予定だ。この新幹線の一番列車がすれ違う時、それを見た人たちの願いが叶うという噂を航一は聞きつける。「もう一度家族みんなで暮らしたい!」と願う航一は、そのことを胸に一番列車のすれ違いを見に行くことを決める。同級生2人を誘って、列車がすれ違うと思われる最寄り駅で龍之介と待ち合わせ。だが龍之介も同級生3人を引き連れてきた。新幹線はずっと高架線なので、すれ違う様子を見ると言っても、そもそも新幹線が見える場所を探すのが一苦労。小学生7人があちこちウロウロしていると、その様子を不審に思った警察官に声をかけられる。これは万事休す。7人はとっさに、親戚の家に遊びに来ていると嘘をつくのだが……。

 子供たちが離婚した両親を仲直りさせようと画策する話としては、何度か映画化されているケストナーの「ふたりのロッテ」が有名。しかしこの『奇跡』では兄の航一が両親の復縁を望んでいるのに対して、弟の隆一郎は両親の夫婦げんかにもうウンザリしているのが面白い。世の中必ずしも、自分たちの思うようにはならない。それを受け入れて生きることを決めた時、子供はほんの少しだが大人になるのだ。

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6月11日公開予定 新宿バルト9ほか全国ロードショー
6月4日公開予定 九州地区先行ロードショー
配給:ギャガ
2011年|2時間8分|日本|カラー|ヴィスタ|DTS、SR
関連ホームページ:http://kiseki.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:奇跡
ノベライズ:奇跡
主題歌CD:奇跡(くるり)
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