酔拳

レジェンド・オブ・カンフー

2011/05/26 シネマート試写室(シネマート六本木)
酔拳の名手として知られた実在の武術家スー・サンの若き日。
前半はアクションに見所がたっぷり。by K. Hattori

Suiken_lok  清朝末期の中国。名将スー・サンは故郷に戻り、家族と共に穏やかな日々を過ごしていた。だがその暮らしは、妻シャオインの兄ユアンによって無残に奪い取られてしまう。地方長官となったユアンがスーの家を襲って父を惨殺し、妻子を誘拐したのだ。理由は仇討ち。かつてユアンの父は五毒邪拳という秘拳に魅了されて理性を失い、親友だったスーの父に殺された。ユアンとシャオインはスーの家に引き取られて実の子同然に育てられたが、ユアンは父を殺された恨みを決して忘れることがなかった。知らせを聞いたスー・サンはユアンと対決するが、五毒邪拳の恐るべき力の前に倒れる。それから数年。シャオインの看病で体力を回復したスー・サンは山中で修行し、ユアンと最後の戦いに挑むのだった……。

 映画は2部構成で、前半の3分の2ぐらいがスー・サンとユアンが対決する仇討ち話。そこに取って付けたように、息子と乞食旅をするスー・サンが、外国人レスラーたちと戦う話が付いている。しかし映画としては、この後半はまるで無駄だ。僕などは「主人公が外人と戦う」という設定に、手垢の付いたナショナリズムを感じて白けてしまう。こんなものは黒澤明の『續・姿三四郎』から、力道山のプロレスを経て、ジェット・リーと中村獅童が戦う『スピリット』まで延々続く、使い古されたエピソードなのだ。中国映画なので製作上の制約なり戦略なりがあるのかもしれないが、これははっきり言って邪魔だし余計なことだった。

 特にこの映画の場合、このオマケがそれ以前のスー・サンとユアンの死闘を台無しにしてしまうのは致命的だ。五毒邪拳という禍々しい暗黒拳を身につけ(これは『スター・ウォーズ』におけるフォースの暗黒面みたいなものなのだ)、蒼白の痩身に金属製の鎧を直接縫い付けるという人間離れした怪物ユアンと戦って勝利したスー・サンが、単に身体が大きくて怪力自慢というだけの外国人レスラーと戦って負けそうになってしまう馬鹿馬鹿しさ。五毒邪拳を圧倒したスー・サンが外人レスラーにきりきり舞いさせられるということは、五毒邪拳と外人レスラーが戦うとレスラーが勝ってしまうということではないのか。黒く変色した両椀から毒ガスのような黒い煙を吹き出して迫ってくる五毒邪拳に手に汗握っていたが、あれは外人レスラーの筋肉馬鹿攻撃に劣るのか。

 これはエピソードの順序を入れ替えて、『續・姿三四郎』と同じように外国人との戦いを序盤に持ってくればよかったのだ。そこで怪力の大男に余裕を持って勝った主人公が、映画の終盤で彼を仇と狙う異形のライバルと戦う話にすれば、主人公の強さも、ライバルの強さも引き立ったことだろう。しかしこれはまるごと『續・姿三四郎』だな……。

 映画の見所はスー・サンとユアンの一騎打ち。井戸の中の戦いなど、ユエン・ウーピンの趣向を凝らした格闘演出は見応えがある。

(原題:蘇乞兒 True Legend)

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6月25日公開予定 シネマート六本木
配給:ツイン 宣伝・配給協力:フリーマン・オフィス
2010年|1時間55分|中国|カラー|スコープサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.suiken-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:酔拳 レジェンド・オブ・カンフー
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