黄色い星の子供たち

2011/05/12 京橋テアトル試写室
フランスで起きたホロコーストを史実に沿って映画化。
これは日本の今に重なり合う問題だ。by K. Hattori

Kiiroihoshi  1940年5月に始まったナチス・ドイツによるフランス侵攻作戦がわずか1ヶ月で終わると、パリを含むフランス北部地域はドイツ支配下として占領された。この後1944年8月の解放まで、パリはナチスドイツに支配される。支配者であるドイツは、本国や他の占領地で行っていたユダヤ人迫害政策をフランスでも実施する。この映画はその時期に起きたユダヤ人一斉検挙と、捕らえられたユダヤ人たちの悲劇を資料にもとづいて描いた歴史ドラマだ。1942年7月16日と17日、フランス警察は5千人を動員して、パリ市内に暮らすユダヤ人1万3千人を検挙した。

 映画は4つの視点から描かれる。1番目はパリに暮らすヴァイズマン家の人々と、その周辺にいるユダヤ人たちの視点。2番目は検挙されたユダヤ人たちに付き添う若い看護婦アネットと、彼女と一緒に収容者たちへの医療活動を行うユダヤ人医師ダヴィッドの視点。3番目は7月の一斉摘発を決めた、ドイツの傀儡ヴィシー政権のフィリップ・ペタン元帥とピエール・ラヴァル首相の視点。そして4番目は、愛人エヴァ・ブラウンや側近たちと談笑しながら、着々とユダヤ人絶滅計画を進めていくヒトラーの視点だ。ただしヒトラーの視点はこの映画の中で、歴史の推移や出来事全体の枠組みを説明するための添え物でしかない。映画の中で描かれるのは、迫害され摘発されるユダヤ人たち(ヴァイズマン家の人々)、ユダヤ人たちを捕らえようとする者たち(ペタンとラヴァル)、ユダヤ人たちを守ろうとする人々(アネットたち)など、当時のフランスに住んでいたフランス人だ。

 ホロコースト関連の映画は多数作られているが、フランスのそれを描いた作品は珍しい。この映画に意義があるとしたら、まずはその点だろう。映画に登場する人物にはすべてモデルとなる人物が実在していて、映画はそうした人たちの残したインタビューや手記、手紙、日記などにもとづいてエピソードを組み立てている。しかし今この時点で僕がこの映画を観て思ってしまうのは、どうしたって東日本大震災やその後の原発事故で避難所生活を強いられている人たちの暮らしなのだ。映画の中には、迫り来るユダヤ人迫害におびえ、父親に「外国に逃げよう!」と訴える少女が出てくる。しかし父親はそれに取り合わない。「逃げるったって、どこに逃げるんだい? お金も仕事もないじゃないか」という現実主義だ。誰もが昨日までと同じ日常が、明日以降も続くと思っている。でも事態はあっという間に動いてしまう。

 逮捕されて逃げ場がなくなったとき、「だからわたしがあれほど逃げようって言ったのに」と少女は父親を責める。「お前の言うとおりだった。でも、わたしは彼らを信用していたんだよ。わたしだけじゃない、みんなが彼らを信じていたんだ」と力なく座り込む父親。それは原発絶対安全神話を信じ込まされてきた我々の姿に、いかに似ていることか。

(原題:La rafle.)

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夏公開予定 TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館
配給:アルバトロス・フィルム 宣伝:テレザ
2010年|2時間5分|フランス、ドイツ、ハンガリー|カラー|シネマスコープ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://kiiroihoshi-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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