キラー・インサイド・ミー

2011/02/23 京橋テアトル試写室
ジム・トンプスンの犯罪小説「おれの中の殺し屋」を映画化。
ジェシカ・アルバはやる気あるのか? by K. Hattori

Killerinside  1950年代の西テキサス。セントラルシティという大げさな名に似つかわしくない田舎町で保安官助手をしているルー・フォードは、物腰の柔らかさと人当たりの良さで町の人々から親しまれてている好青年。独身だが町一番の美人教師エイミーと付き合っていて、二人の関係は町の人なら誰もが知る公然の秘密になっている。ある日、町外れの家で若い女が売春をしているとの通報を受けて彼女の家に向かった彼は、口汚く彼をののしり平手打ちを食らわせた娼婦に腹を立て、彼女をベッドに押しつけると荒々しくレイプする。このことが、長年彼の心の奥深くに眠っていた凶暴さを目覚めさせることになった。この娼婦の名はジョイス。以来彼は勤務中に白昼堂々彼女の家を訪れては情事にふけり、夜は自室に恋人のエイミーを呼び出して関係を持つ二重生活者となる。やがてジョイスの上客の中に町の有力者の息子エルマーがいることを知ったルーは、彼女と共謀してエルマーから大金をむしり取ることを計画するのだが……。

 主人公ルー・フォードを演じるのはケイシー・アフレック。彼の凶暴さを目覚めさせるきっかけとなった若い娼婦をジェシカ・アルバが演じ、恋人の教師エイミーをケイト・ハドソンが演じている。監督はマイケル・ウィンターボトム。主人公のモノローグを多用して犯罪を描くところはフィルムノワールのスタイルを取っているが、この映画はほとんどの事件が真っ昼間に行われる点で「ノワール」たることを拒絶している。光の中で行われる犯罪は、それを犯す人間の心の闇の深さをより一層際立たせる。

 この物語の中で解き明かすべき謎は、主人公の心の中にある。だがその謎の正体が、すべて明らかになることはない。ルー自身の少年時代の記憶が彼の強烈なトラウマになっているようではあるのだが、これが実際の出来事なのか、それとも彼の欲望が生み出した幻想なのかはわからない。フロイト的な見方をするなら、ルーの行動からエディプス・コンプレックスを読み取ることは容易だし、兄の死の真相にルー自身の関与を感じ取ることもできる。だがそうした詮索は、この映画のねらいとは別のものであるように思う。僕はむしろこの主人公の「わからなさ」に現代性を感じるのだ。最近はどうも、動機不明な不可解な事件が増えているように思う。誰が犯人なのか、どうやって犯罪を起こしたのかはわかっても、その理由や動機がわからない。動機が主張されても、それと犯行が直接的に結びつかない。この映画のルー・フォードは、そうした不可解な犯罪者たちのひとりなのだ。

 しかしこの映画で、もっとも不可解なのはジェシカ・アルバである。セクシーな娼婦役でヌードもあるのに、バストトップをかたくなにガードするその姿勢が僕にはわからない。やるなら徹底してやれ。この煮え切らない態度に白けてしまう人は、たぶん僕だけではないと思うぞ。

(原題:The Killer Inside Me)

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4月16日公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷
配給:日活 宣伝:スキップ
2010年|1時間49分|アメリカ、スウェーデン、イギリス、カナダ|カラー|シネマスコープ|ドルビーSRD、DTS
関連ホームページ:http://www.kim-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:キラー・インサイド・ミー
原作:おれの中の殺し屋 (ジム・トンプスン)
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