自爆テロで家族を失った女性が、テロの首謀者であるオサマ・ビン・ラディンに書いた手紙……という体裁を取ったクリス・クリーヴの小説「息子を奪ったあなたへ」を、『ブロークバック・マウンテン』のミシェル・ウィリアムズ主演で映画化した作品。2008年に製作されたイギリス映画だが、内容がちょっと地味なせいかこの時期にひっそり公開されることになる。監督・脚本は『ブリジット・ジョーンズの日記』(これも一人称小説の映画化だった)のシャロン・マグアイア。共演はハリウッドでも売れっ子のユアン・マクレガーと、『プライドと偏見』のマシュー・マクファディン。
警察の爆発物処理班で働く夫を持つヒロインは、出かけていった夫が無事に帰ってくるかと毎日心配する暮らし。夫も仕事の重圧のためか、家ではあまりしゃべらない。そんなストレスから逃れるように、彼女は近所の若い新聞記者ジャスパーと関係を持ってしまう。そのしばらく後、夫と息子はサッカーのひいきチームを応援するためスタジアムへ。留守番の彼女は偶然であったジャスパーと、サッカー中継を見ながら再び関係を持ってしまう。だがサッカー中継は突然の轟音と共に中断する。スタジアムで爆弾テロが起きたのだ。千人以上の死者が出る大惨事。その犠牲者の中に、彼女の夫と息子もいた……。
原作未読で映画だけ観たのだが、映画はいろんな意味で釈然としないものだった。物語がわかりにくいとか、登場人物の行動が納得できないということはない。物語は誤解の余地もなくわかりやすいし、登場人物の行動もそれなりに筋の通った一貫性を持っている。しかしそれでも、僕はこの映画に釈然としない。何か腑に落ちないものがある。それはこの映画が、結局のところ何を描こうとしている映画なのか、この映画のテーマが何なのかがよくわからないからだ。個々のエピソードはわかる。個々のキャラクターの行動も理解できる。しかしそれらが繋がり合ったとき、そこにどんな意味が生まれるのかがわからない。
例えばヒロインがユアン・マクレガー扮する新聞記者と浮気をするエピソードは、この物語の中でどんな意味を持っているのか。新聞記者の男は彼女との関係を通して何を学び、何を考えたのか。死んだ夫の同僚だった警官は、彼女との関係の中で何を見出すのか。そしてヒロイン自身も、死んだ夫、息子、新聞記者、夫の同僚警官(全員が男だな)との関係の中から、どんな自分を発見することになるのか。テロ実行犯の家族。ビン・ラディン。ヒロインの周囲に有形無形の姿で寄り添う大勢の人々の中で、ヒロインは何を考えるのか。そこに生まれた関わり合いの中から、映画は観客に何を伝えようとしているのか。これがさっぱりわからない。
ラブストーリーでも、サスペンスでも、アクションでもないこの映画は、そもそもジャンルさえ不明。映画を観た感想も、着地点を探してうろうろするばかりだ。
(原題:Incendiary)
DVD:ブローン・アパート
原作:息子を奪ったあなたへ(クリス・クリーヴ) 関連DVD:シャロン・マグアイア監督 関連DVD:ミシェル・ウィリアムズ 関連DVD:ユアン・マクレガー 関連DVD:マシュー・マクファディン |