人生万歳!

2010/09/15 映画美学校試写室
偏屈な元天才物理学教授が年の離れた田舎娘と結婚!
ウディ・アレンのドタバタ恋愛コメディ。by K. Hattori

Jinseibanzai  かつてノーベル賞候補になったこともある天才物理学者のボリス・イェルニコフは、年を取ってすっかり偏屈で頑固で厭世的で皮肉屋のじじいになっている。彼は頭がよすぎて、人生がいかに虚しいかを知ってしまった……ということらしい。彼は自殺未遂騒動の後、大学教授の地位を捨て、妻と離婚し、高級マンションや財産も手放し、残りの人生をぶつぶつ文句を言いながら嫌々生きることにした。だがある夜、彼は自宅のボロアパートの前で、家出して行くあてがないという田舎娘のメロディに出会う。食事と数日の宿を提供するという約束で彼女を部屋に泊めたボリスだったが、何日たっても彼女は出て行かず、やがてふたりは結婚してしまうことに……。

 ウディ・アレン監督が、久しぶりにニューヨークに戻って撮ったラブ・コメディ。監督は出演せず脚本と演出に専念しているが、アレンが監督に専念している作品の常で、主人公ボリスを演じたラリー・デヴィッドはぶつぶつと神経質に文句を言い続けるウディ・アレンの物まね状態になっている。もともとは1970年代に書かれた脚本がベースだと聞くと、主人公がカメラを通して観客に語りかける演出などに『アニー・ホール』(1977)と共通するものを感じた理由も納得できる。しかし完成した映画には1970年代のウディ・アレンではなく、現在のウディ・アレンの個性が色濃く反映している。娘のような若い女と結婚した主人公ボリスの姿には、還暦を過ぎて22歳のスン・イーと結婚したウディ・アレンの姿がだぶってくるではないか。

 物語自体はシェイクスピアの「夏の夜の夢」を連想させる、恋の取り違え喜劇。登場人物たち全員が本来結ばれるべき相手と結ばれず、別の相手との恋を本物の恋だと思い込んでいる。シェイクスピアは物語の最初に「あるべき姿」を提示してから惚れ薬を使った恋の取り違えを起こし、ドタバタ騒ぎの末に本来の「あるべき姿」へと物語を回帰させている。観客にとっては予め定められたゴールが見えているため、どんなに関係が錯綜しても混乱せずに安心してドタバタを楽しめるわけだ。しかし『人生万歳!』には妖精の惚れ薬など出て来ない。登場人物たちにも観客にも「取り違えられた恋」など知るよしもないまま物語は展開するから、先が見えなくてスリル満点。それだからこそ物語の中盤から終盤にかけて、すべてが「あるべき姿」へと収まっていく気持ちよさは何倍にも増幅されるのだ。

 ご都合主義だって? 確かにその通り。しかしこの映画では、そうしたご都合主義自体がギャグにされている。主人公ボリスがカメラ目線で観客に向かって語りかけ、物語自体が「虚構」でしかないことを強調するのもそうした目的からだろう。これは映画だからこそ、「恋の取り違え」は解消されて全員が幸せになった。でも現実の中ではそうはいかない。今も多くの人が取り違えられた恋を、真実の恋と勘違いして信じて生きている。

(原題:Whatever Works)

Tweet
12月11日公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:アルバトロスフィルム 宣伝:メゾン
2009年|1時間31分|アメリカ、フランス|カラー|1:1.85|ドルビーデジタル(モノラル)
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:人生万歳!
サントラCD:Whatever Works
関連DVD:ウディ・アレン監督
関連DVD:ラリー・デヴィッド
関連DVD:エヴァン・レイチェル・ウッド
関連DVD:パトリシア・クラークソン
関連DVD:エド・ベグリー・Jr
関連DVD:コンリース・ヒル
関連DVD:マイケル・マッキーン
ホームページ
ホームページへ