むかしむかし、バーク島に暮らすバイキング族は、しばしば島を襲ってくるドラゴンたちと戦いを繰り返していた。族長の息子ヒックは他の子供たちに比べると体が小さくて弱く、族長にとっては大きな悩みの種。自分もドラゴンと戦いたいと思っても、いつもヘマをしてみんなに迷惑ばかりかけている。だがある日ヒックは村から少し離れた森の中で、傷つき飛べなくなっているドラゴンのトゥースに出会う。トゥースと親しくなり、その背にまたがって空を飛べるようになったヒック。トゥースと接することでドラゴンの生態を学んだヒックは、村一番のドラゴン・トレーナーとして注目と喝采を浴びることになる。だが間もなく村人たちにも、ヒックとトゥースの関係が知られてしまう。ヒックの父である族長はトゥースを捕らえ、ヒックを閉じ込め、自らは村人たちを従えてドラゴンと最後の戦いに向けて島を出て行くのだった。ヒックはこれを何とか止めようとするのだが……。
イギリスの作家クレシッダ・コーウェルの同名児童文学シリーズ(日本でも6巻までが翻訳されている)を、『リロ・アンド・スティッチ』のディーン・デュボアとクリス・サンダース監督が映画化したもの。売りは最新の3D映像。ドラゴンにまたがったヒックたちが大空を自由自在に飛行するシーンは、宮崎アニメの飛行シーンを実写で映像化したような気持ちよさ。実際にこの監督たちは宮崎アニメの大ファンで、この映画も『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』『紅の豚』などを参考にしているという。
原作ではドラゴンのトゥースがヒックとドラゴン語で会話しているそうだが、僕は映画の中でドラゴンが人間の言葉を解さないというところが気に入っている。ヒックがトゥースと心を通わせて彼を乗りこなすようになるシーンは、西部劇に出てくる「調教されていない野生の名馬を乗りこなすカウボーイ」と同じだ(時代劇にも時々似たようなシーンが出てくることがある)。相手の恐れを取り除き、まずはそっと近づき、触れ合い、鞍やあぶみを載せて、その上にまたがる。こうした暴れ馬はたいてい他の馬を威圧するような漆黒の姿だったりするのだが、それはドラゴンのトゥースも同じ。ドラゴンは人間とはまったく別種の高貴な生きものであり、そこには人間とは決して分かち合えないものがある。
ただし僕は最終的にドラゴンたちが「ペット」になってしまったことは不満でもある。ドラゴンたちは高貴な暴れ馬だから、最終的には人間に飼い慣らされてしまうのがオチなのだろう。しかし映画の前半から中盤までこの映画が保持していた「異文化との対立から和解へ」というメタファーは、ドラゴンが家畜化された時点で消えてしまう。結局は人間側の生活が中心で、ドラゴンたちはその周辺に隷属する存在にさせられてしまうのだ。僕はここにアメリカという国の姿を見る。監督たちが敬愛する宮崎駿が、『もののけ姫』で出した結論とは対照的だ。
(原題:How to Train Your Dragon)
DVD:ヒックとドラゴン
サントラCD:ヒックとドラゴン サントラCD:How to Train Your Dragon 関連CD:エメラルド(ベッキー♪♯) 原作:ヒックとドラゴン(クレシッダ・コーウェル) 関連DVD:ディーン・デュボア監督 関連DVD:クリス・サンダース監督 |