超強台風

2010/08/23 ブロードメディア・スタジオ月島試写室
歴史上まれにみる巨大台風が中国沿岸部の都市を襲う。
物語はほとんどギャグだが熱気がスゴイ。by K. Hattori

Supertyhoon  観測史上最上級の台風が、中国沿岸部の都市を襲うというディザスター映画。中国映画としては破格の制作費をかけ、初めてのジャンルにチャレンジした意欲作とのことだ。ディザスター映画の定番ストーリーは、専門家が危険を指摘しても行政担当者がそれを受け入れずに被害が拡大するというパターン。学者が「市民に避難を呼びかけてください」と言っても、責任者は「もし何も起こらなかったらどうするのかね」とか言って取り合わない。そうこうするうちに実際に被害が起きて、責任者は真っ青。主人公は仲間たちと力を合わせて、被害拡大を防ぐため奔走する……。このパターンは海水浴場に現れた人食いサメが相手であろうと(スピルバーグの『ジョーズ』)、韓国沿岸部を襲う巨大津波であろうと(韓国映画『TSUNAMI ツナミ』)であろうと同じだ。ところがこの『超強台風』では恐るべきことが起きる。「台風が来るかどうかは確率論ですから断言できません」と煮え切らない態度を示す学者や担当部署に対して、行政トップである市長が「何も起きないならそれはそれでいい。考えるべきは人命だ」と率先して行動することだ。

 この映画は中国映画であり、脚本段階で政府の事前検閲を受けている。プレス向けの資料によれば、そもそもこの映画の原案は政府から出ているのだという。要するに政府御用達の防災PR映画なのだ。そこで「行政の無能」を描けるはずがない。むしろ政府は人々のために粉骨砕身努力を惜しまない存在であり、一命を賭しても人々を守る存在だ。この映画でそんな「政府」を代弁する立場になっているのが、主人公の市長だ。彼は的確な判断と指示で巨大台風に立ち向かい、人々を感化し、結束させて、非常事態を乗りきっていこうとする。中国の古典論語にある孔子の言に曰く「君子の徳は風なり、小人の徳は草なり」。身勝手に自分のことしか考えていない小人たちの性格は草のようなもので、君子がそこに大きな風を吹かせば草は風になびいて君子に従う。映画に登場する市長はまさに、孔子の言うところの「君子」だ。彼は持ち前の人徳で、人々を惹きつけ、従わせてゆく。

 実際の中国の行政官が、この映画に登場する市長ほど高潔な人格者だとはとても思えない。仮にそんな人物が存在したとしても、それは映画の主人公には向かないというのが常識だ。完全無欠な主人公は、自分の判断について悩むことがない。内的な葛藤がない人物に、観客は共感できない。そこで映画はこの主人公に、徹底的に「外部からの葛藤」を押しつける。次から次に危機が起きて、市長の身に降りかかってくる。ほとんど「むちゃ振り」に近い試練の連続には、途中から笑いが出てくるほどだ。僕はサメの登場に笑い、市長が「私は元特殊部隊だ!」と水中に飛び込んでいく時点で爆笑してしまった。大まじめに作っているのに、結果としてギャグになっている愛すべき馬鹿映画だ。

(原題:超強台風 Super Tyhoon)

9月25日公開予定 新宿ミラノ
配給:ブロードメディア・スタジオ 宣伝:フリーマン・オフィス
2008年|1時間34分|中国|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.super-typhoon.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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