恒星間飛行が実用化され、さまざまな星々との間で交流や交易が当たり前のように行われている未来。超ハイテクな世界の中で、それでもあえて自動車レースという超アナクロなスポーツに熱中する者たちがいた。各地の草レースで名前をあげ、地区ごとに開催されるイエローライン大会で優勝した者は、銀河宇宙ナンバーワンを決める5年に1度の大会レッドラインに出場することができる。
草レースのレベルでは向かうところ敵なしのJPは、レース中の他車への妨害が認められる大会において、走行テクニックだけで勝ち残ってきた男。武器を使った派手で攻撃的な妨害が見せ物になっているレースの世界で、彼は「スゴク優しい武器なし王子」と半ば揶揄されている。だが彼が勝てないのは、そんな優しさからではない。天才メカニックである相棒フリスビーと共に八百長レースに手を染め、ここ一番というタイミングでライバルにトップを譲ってしまうのだ。欲張って上位のレースに出場するより、自分がすべてをコントロールできるイエローラインで目立たない中堅レーサーに甘んじていた方がいい。だがその年のレッドライン開催地が軍事独立惑星のロボワールドに決まり、有力な出場者が何人か出場を辞退したことで、予選落ちしたはずのJPにレッドライン出場のチャンスが巡ってくる。レーサー魂に火を付けられたJPは、レッドラインへの出場を決めるのだが……。
原作・脚本・音響監督は『鮫肌男と桃尻女』『茶の味』などの石井克人。監督は彼と『PARTY7』でコンビを組み、オムニバス映画『アニマトリックス』の中で「ワールド・レコード」を監督した小池健。制作は『時をかける少女』『サマーウォーズ』のマッドハウス。その他の一般的な映画のセールスポイントは、声優に木村拓哉、蒼井優、浅野忠信という豪華なキャスティングを揃えたところだろう。だがこの映画は「絵」こそが主役。最近流行の(一過性の流行ではなく必ず定着してくるだろう)3Dなどには目もくれず、ひたすら手描きの2次元世界にこだわっている。これが超ハイテク時代にカーレースをしている映画の主人公たちの姿と、一脈通じ合う部分でもあるのだ。「何のためにここまでやってしまうの?」という、感心しながら馬鹿馬鹿しく感じるほどの描画力。極端にデフォルメされたキャラクターやアクションは、3次元空間をシミュレーションする3D映像では決して表現できないだろう。2次元であればこそ実現できる、映像のマジックだ。
この映画で採用されている極端なデフォルメは、アニメーション映画初期から脈々と受け継がれてきているカートゥーンアニメの技法の到達点。3次元空間をまったく無視しすることで視覚と心理に訴えていくこの技法は、このままでは決して3D化できない表現だ。サイレント映画の末期にサイレント映画独自の技法が爛熟を極めた歴史を、アニメも同じようにたどっているのかもしれない。
DVD:REDLINE
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