死刑台のエレベーター

2010/07/30 角川映画試写室
1957年の同名フランス映画を現代日本に置き換えたリメイク版。
脚本にあちこち穴があるのが気になる。by K. Hattori

Shikeidai2010  勤務先の社長夫人と愛し合うようになった男は、彼女と共謀して社長殺しを実行する。それはビルの外壁を伝って社長室に侵入し、鍵のかかった密室内で社長が自殺したように見せかけるという完全犯罪だった。しかし男はビルから外に出る手前で、エレベーターの中に閉じ込められてしまう。共犯者である社長夫人と連絡が取れないまま、刻一刻と時間が過ぎてゆく……。1957年に製作されたルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』を、現代の日本を舞台に阿部寛と吉瀬美智子主演でリメイクした作品。話の筋立てもトリックも、最後のオチまでオリジナル版のままという作品で、これは「リメイク」と呼ぶより、むしろ1950年代のフランスで生まれた映画を、現代の日本向けに「ローカライズ」した作品と表現する方が手っ取り早いかもしれない。

 ローカライズする上での重要なポイントのひとつは、犯行が行われる古いビルや主人公が閉じ込められるエレベーターを、現代日本のオフィスビルでどのように再現するかという問題だった。携帯電話が普及している現在、エレベーターに閉じ込められただけで主人公が外部と連絡ができなくなってしまうのも奇妙だ。また銃の取り締まりが厳しい日本で、複数の銃が物語に登場するという話の展開も何かしら合理的な説明をしておかなければならない。今回の映画では物語の舞台を横浜に設定し、戦後すぐに建てられたとおぼしき古いオフィスビルを持ってくることでクリアした。携帯電話の問題は、それよりさらに手早くクリアする。銃の問題はやや苦しいが、それでも日本国内において銃を持っていて不思議ではなさそうな人物を登場させたことでクリアしている。このリメイク版を観る前に「現代日本で大丈夫かよ?」と懸念していいたほとんどの設定は、この映画の中できちんと解決されていたと思う。これだけでローカライズは完了だ。

 しかしこの映画はそこから「ローカライズ」の枠をはみ出し、リメイク版ならではの「アダプテーション(脚色)」へと足を踏み入れていく。残念だが、これが成功しているとは言い難い。もっとも理解しがたいのは、主人公と社長夫人の不倫関係を会社内の複数の人物が知っていること。これでは最後のオチの証拠がなくても、いずれ警察は社長殺しの真犯人を捜し当てただろう。また主人公が缶詰になっている間に起きた別の殺人事件に使われる銃も、調べればすぐに足が付くようなものだ。こうした欠陥を抱えているため、この映画は最後のオチが錆び付いてしまった。

 どうせ脚色するなら、もっと別の脚色をすべきだろう。例えば僕なら、主人公の男をもっと若い20歳代のイケメン俳優にする。その上で、ヒロインを30代後半の美人女優にする。こうすれば映画の後半で、「私があなたを救ってあげる!」とヒロインが大胆に行動しはじめるのも説得力があるし、ラストのオチで語られるヒロインのモノローグの残酷さも際立って来ただろうに。

10月9日公開予定 角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
配給:角川映画
2010年|1時間52分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.shikeidai.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:死刑台のエレベーター
オリジナル版DVD:死刑台のエレベーター(1957)
原作:死刑台のエレベーター
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