スプリング・フィーバー

2010/07/16 映画美学校試写室
不誠実な恋に自ら傷つき孤独を深めていく恋人たち。
ロウ・イエ監督のラブストーリー。by K. Hattori

Springfever  私立探偵のハイタオは、調査を依頼してきた女性教師の夫ワンがゲイの青年ジャンと浮気している証拠をつかむ。関係を知られたワンとジャンは、ワンの妻も交えたドタバタの修羅場の末に別れることになった。一方探偵のハイタオはジャンに興味を持って彼に接近し、やがてふたりは深い関係に。ここにハイタオの恋人リー・ジンも加わって、奇妙な三角関係が生まれる。だがこの関係は、長く続かなかった……。ワンが自殺。リー・ジンも自分の恋人がジャンと熱い抱擁を交わしている姿を見て動揺するのだった。

 登場人物全員が、複数の相手と関係を持っているというラブストーリー。ワンは妻がいる身でありながら、ジャンと関係を持っている。ジャンは家庭を持つワンと別れた直後に、ハイタオと親しい関係を持つようになる。ハイタオはリー・ジンという恋人がいるのに、ジャンとの関係にのめり込んでゆく。リー・ジンはハイタオの恋人でありながら、勤務先の工場長とも特殊な関係にあるらしい。彼らは全員が、目の前にいる人と一緒にいながら、その人を愛し抜くことができない。いつも相手に知らせていない秘密を抱え、気持ちの何割かを、今は目の前にいない別の相手の方に向けている。それは今目の前にいる人より、じつは別の誰かのことが「本当は好き」というような単純なものではない。気持ちに本物も偽物もない。どちらも好きだし、どちらも一緒にいたいし、でもどちらといても満たされない。ハイタオはジャンとリー・ジンを交えた3人暮らしをしていても、やはりそれに満足しているわけではないのだ。

 彼らはなぜ満足できないのか。ひょっとすると、彼らはこの映画にすら登場していない「誰か」を愛しているのかもしれない。目の前にいる恋人や愛人はその「誰か」の代用品でしかなく、本当の愛の対象は観客の目に触れていないだけなのかも。少なくとも映画の中心にいるジャン、ハイタオ、リー・ジンの3人は、そんな風に見えてしまうのだ。映画の最後にまた別の相手と暮らし始めているジャンが登場するが、彼はその時、一緒にいる相手のことをまるで見ていない。でも彼の心はどこにあるのか? 彼はハイタオのことを恋しいと思っているのか? それともワンのことを考えているのか? あるいはワンと付き合うよりもっと以前に付き合っていた、別の恋人のことを考えているのだろうか。

 失恋の痛みを癒す特効薬は、新しい恋だとよく言われる。でもそれは一時しのぎの鎮痛剤でしかない。恋の痛みを新しい恋で隠そうとすればするほど、心の奥深くで傷は疼き続けるのだ。この傷を癒す特効薬などない。ゆっくりと時間をかけて、触れても痛まない程度に傷がふさがるのを待つだけだ。でもその間にも、人は孤独であることに耐えられずに誰か別の人を求めてしまう。恋の多くは代用品であり、不誠実なものなのかもしれない。僕も不誠実な恋をずいぶんしてきたなぁ……と、反省を強いられる映画だった。

(英題:Spring Fever)

11月6日公開予定 渋谷シネマライズほか全国順次公開
配給:UPLINK
2009年|1時間55分|中国、フランス|カラー|1:1.85|Dolby SRD
関連ホームページ:http://www.uplink.co.jp/springfever/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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