それいけ!アンパンマン

ブラックノーズと魔法の歌

2010/07/10 TOHOシネマズ錦糸町(スクリーン5)
残忍な継母ブラックノーズの呪いを受けて育てられた娘カーナの運命。
同時上映は『はしれ!わくわくアンパンマングランプリ』。by K. Hattori

それいけ!アンパンマン ブラックノーズと魔法の歌  人気アニメの劇場版シリーズ第22弾。テレビアニメ「それいけ!アンパンマン」が始まったのは1988年からで、翌年からは劇場版がスタートし、毎年1本ずつ新作が公開されている。テレビ版ではバイキンマンの度を超したいたずらや悪だくみをアンパンマンたち正義の味方がやっつけて、「バ〜イバイキ〜ン」となるのが毎度のパターンだが、映画版ではバイキンマンを超える悪玉キャラが登場して世界に壊滅的な危機が迫るというのがいつものパターン。今回の映画では悪玉キャラとして闇の女王ブラックノーズが登場し、世界中を闇で覆いつくそうとする。

 アンパンマンにはいろいろと謎が多いのだが、その中でも定番と言える謎が、アンパンマンはなぜバイキンマンを徹底的にやっつけてしまわないかだ。アンパンマンは優しいので、悪を徹底的に滅ぼすことがないという解釈もあるようだが、映画版では悪玉キャラを何度も滅ぼしているのだから、アンパンマンだってやるときゃしっかりカタを付けるのだ。今回の映画でも、最後にブラックノーズは倒され、滅ぼされ、世界には平和が戻ってくることになる。ひょっとすると悪玉キャラは世界から追放されているだけかもしれないが、バイキンマンがやられてもやられても毎回懲りずに姿を現すように物語のレギュラーとして定着することはない。

 これはアンパンマンを観ている人には常識かもしれないが、バイキンマンというのはじつのところ「それいけ!アンパンマン」のもうひとりの主人公なのだ。小さな子供を持つ人なら、アンパンマンのファンである小さな子供たちがアンパンマンよりむしろバイキンマンに近いことを実感しているはず。子供たちはイタズラ好きで、意地悪で、自分の欲望に忠実で、食いしん坊で、権威に反抗的で、悪いことや汚いことが大好きな暴君なのだ。しかし子供たちは、それが悪いことやいけないことであることを知っている。子供たちは自分たちの中にあるバイキンマン的な部分を克服して、大人へと成長してゆかなければならない。快楽主義者で欲望に忠実なバイキンマンはフロイトの精神分析で言うところのエス(イド)であり、アンパンマンはそれを律するスーパーエゴだ。スーパーエゴがどんなに発達しても、エスの活動が止まってしまえば人間の精神活動は停滞してしまう。アンパンマンがバイキンマンの息の根を止めてしまえば、アンパンマンワールドは滅びてしまうのかもしれない。

 映画版アンパンマンに登場する悪玉キャラは、エス(バイキンマン)やスーパーエゴ(アンパンマン)とは別の外部世界から侵入してくる「他者」の役割を担っている。人は「他者」と係わり、対立し、葛藤することによって、人格的に成長してゆくことができる。子供たちは「自己」の内部で完結しているテレビ版のアンパンマンから、「他者」との対決という劇場版アンパンマンを経て成長し、やがてアンパンマンの世界から卒業してゆくのだ。

7月10日公開 銀座テアトルシネマほか全国ロードショー
配給:東京テアトル、メディアボックス
2010年|1時間13分|日本|カラー
関連ホームページ:http://anpanman.jp/movie2010/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:それいけ!アンパンマン ブラックノーズと魔法の歌
サントラCD:それいけ!アンパンマン ブラックノーズと魔法の歌
原作:それいけ!アンパンマン ブラックノーズとまほうのうた
関連DVD:それいけ!アンパンマン
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