花と蛇3

2010/06/30 東映第1試写室
濃くてディープな世界のはずが映画の印象は軽くて薄い。
小向美奈子目当てのかたはどうぞ。by K. Hattori

Hanahebi3  2003年に杉本彩主演、石井隆の監督・脚色で映画化された、団鬼六原作のSM映画『花と蛇』のパート3。05年の続編『花と蛇2 パリ/静子』までは石井・杉本コンビで作られたシリーズだったが、今回の映画はスタッフとキャストを一新。製作・配給が共通(東映ビデオ)なのでタイトルこそ『花と蛇3』というタイトルで前2作と区別しているが、内容的には同じ原作にもとづく仕切り直しの第1作目という仕上がりになっている。脚本はOV作品で既に団鬼六作品を何度か手掛けた経験のある我妻正義。監督は『実録・夜桜銀次』の成田裕介。

 本作の話題性はおそらく、主演の小向美奈子にあるのだろう。彼女は2000年にデビューした正統派のグラビアアイドルだったが、08年に事務所は素行の悪さを理由に専属契約を解除。これだけでもただ事ではないわけで、彼女のその後の芸能界活動を危ぶむ声があった。しかもあろうことか彼女はこの直後、週刊誌に芸能界の売春スキャンダルを告白。語られた内容にどの程度の信憑性があるのかはともかく、やっていることは自分をクビにした芸能界への腹いせにしか見えず、これで彼女の芸能界復帰はいよいよダメだろうと誰もが思ったはずだ。ダメ押しは翌年には覚醒剤の所持と使用で逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けたこと。「事務所をクビになった理由はこれか!」と誰もが思い、彼女の芸能界復帰はもはや絶望的、120%あり得ないと誰もが考えたはずなのだ。ところが彼女は、何をどう思ったのか突然ストリッパーに転身して浅草ロック座の舞台に現れる。「落ち着くところはせいぜいAVか」と思われていた中で、アナクロとも思えるストリップへの出演は話題を呼び、彼女はこれで再び芸能マスコミの脚光を浴びるようになる。彼女はグラビアアイドル時代にドラマや映画に出演して女優業をしていたことがあるようで、本作は彼女にとっての本格的な女優復帰作となるのかもしれない。

 物語はスタートの設定からして支離滅裂ででたらめ。しかしこれはあまりリアルにしてしまうと陰惨な話になってしまうので、わざとユルユルの物語世界を作っているのだと好意的に解釈しても構わない。借金の肩代わりを条件に若いご婦人が陵辱されるなんて話を、リアルで真に迫った映画にしたって楽しくないだろう。むしろこれはファンタジーでいい。入口は紋切り型で構わない。むしろその方が、虚構としての嗜虐と被虐の世界にすんなりと入り込める。演じられているのは記号化された動作であり、記号としての物語なのだ。そこにリアルな痛みはない。しかし問題は、そこにリアルな快楽も存在しないことだろう。

 残ったのは結局、小向美奈子の肉体しかない。しかし彼女の存在がいかにセンセーショナルであるにせよ、ここに杉本彩と同程度の商品価値があるのかは疑問だ。むしろこれはもっとリアルに、マニアックな方向を目指した方がよかったのかもしれない。

8月28日公開予定 銀座シネパトスほか全国公開
配給:東映ビデオ 宣伝:スキップ
2010年|1時間47分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.dmm.co.jp/hanatohebi3/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:花と蛇3
関連DVD:小向美奈子 緊縛―映画「花と蛇3」より―
関連書籍:小向美奈子写真集 『花と蛇 3』
原作:花と蛇(団鬼六)
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