RAILWAYS

49歳で電車の運転士になった男の物語

2010/06/26 楽天地シネマズ錦糸町(CINEMA3)
人生の岐路でそれまでと異なった生き方にポイントを切り替えた男。
これは俳優中井貴一の個性が生きた映画。by K. Hattori

RAILWAYS オリジナル・サウンドトラック  主人公の筒井肇は間もなく50歳。大手メーカーの本社勤務で間もなく取締役になろうかというエリート社員だが、故郷島根で暮らす母親が倒れ、同期入社だった親友が突然事故死したことから、自分自身の人生を考え直しはじめる。故郷の家を整理していて見つけた古いアルバムと、子供時代の宝物。そこには電車好きだった少年時代の夢が、ぎっしりと詰まっていた。少年のような笑顔で古びた列車の切符を手にする肇は、その様子を不思議そうな目で見つめる娘に「お父さんは子供の頃、電車の運転士になるのが夢だったんだ」と語る。それからしばらく後、会社に辞表を提出した肇は故郷のローカル鉄道会社・一畑電車(バタデン)の運転士募集に応募。見事採用されて運転士試験にも合格し、少年時代の夢だった運転士の仕事を始めるのだが……。

 主人公筒井肇を演じるのは中井貴一。このキャスティングが、まずはすごく良かったと思う。映画序盤の主人公は家族も顧みず仕事に打ち込むエリートサラリーマンなのだが、その仕事一途な様子を何の嫌味もなくごく自然に演じているのだ。この物語の場合安直な映画の作り方をすると、エリートサラリーマン時代の主人公は社会的には成功していても本当は不幸な人間であり、子供時代の夢をかなえるためにエリートの道を棄てることで、彼は幸せをつかんで本当の意味での勝者になりました……という話になってしまいそうなのだ。金持ちで不幸であるより、貧しくとも幸福である方がいいという、使い古された紋切り型の人生論。実際映画の中には、そうした方向にいつでも向かっていけそうな要素がたっぷり用意されている。だが映画はそうした方向に向かわない。誰だって生活の中に多かれ少なかれいろんな問題を抱えている。主人公の生活だってそうだ。でも彼はそれなりに幸せだし、今後サラリーマンを続けたとしても、残りの会社人生をそれなりの成功者として生きていけただろう。中井貴一の生き生きとしてサラリーマンぶりを見ていると、そうした未来像に説得力がある。主人公と対比させるように、遠藤憲一演じる親友の工場長が疲れ果てた顔をしている。遠藤憲一は工場長という仕事に、明らかに疲れているのだ。このふたりを比べると、中井貴一はまだまだこれからも会社の中で活躍しそうに見えるではないか。

 中井貴一のエリートサラリーマンぶりが様になっているからこそ、主人公が会社を辞めて電車の運転士になるという決断が重いものになる。筒井肇はサラリーマンとして前途のある人なのだ。その彼が、有望な前途を棄てて、給与や待遇や社会的な評価では比較にならない運転士という仕事を選ぶからこそ、そこにはドラマが生まれる。中井貴一だからこそ、そうした人生のドラマに説得力が生まれるのであり、これを例えば遠藤憲一と中井貴一の配役をそっくり入れ替えてしまうと、仕上がった作品はまったく別のものになったと思う。

5月29日公開 丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:松竹
2010年|2時間10分|日本|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.railways-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語
サントラCD:RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語
主題歌CD:ダンスのように抱き寄せたい(松任谷由実)
ノベライズ:RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語
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