フローズン

2010/06/23 アスミック・エース試写室
アイデアは面白いけど、もっと面白くする余地はありそう。
これだけでも十分面白いけどね。by K. Hattori

Flozen  地元客相手に週末だけ営業している小さなスキー場で、週末最後の滑りを楽しもうとリフトに乗り込んだ大学生3人組。だがちょっとした行き違いから、スキー場スタッフは3人の乗ったリフトを止めてその週の営業を終了し、スタッフも全員帰宅してしまう。リフトに乗ったまま地上10数メートルに取り残された3人は、スキー場全体の電源が落とされたことでパニックだ。こういう時に限って、誰も携帯電話を持っていない。しかも週末の小旅行で、3人は誰も周囲の人たちに行き先を告げていないのだ。このままでは次の営業が始まる金曜日の朝まで、誰も自分たちに気づかない。夜間は氷点下20度にもなろうかという山の中で、飲まず食わずのまま1週間を過ごせばどうなるか。真っ暗な闇の中から「死」という言葉が迫ってくる。何としてでもリフトから降りて、助けを呼びに行かなければ。だがどうやって?

 ダイビング客が海に置き去りにされる『オープン・ウォーター』にも通じる、置き去り系サスペンス映画のスキー場版だ。サスペンスの語源は「宙吊り」だというから、これは「サスペンス系サスペンス」と呼んでもいいかもしれない。空中に宙吊りにされたまま行くことも退くこともできず、放置しておけば死んでしまうという状況。これはサスペンス映画の状況設定として、きわめて純度が高いアイデアではないだろうか。もちろんこうした状況設定は、これまでにも多くのアクション映画の中で繰り返し登場したものではある。しかしそれは長いアクションシーンの中の一部としてであって、宙吊りだけで1時間半の映画を作ろうとした人はこれまでいなかったのではないだろうか。

 この映画の欠点を言うなら、それは「宙吊りで置き去り」という優れたアイデアだけで最初から最後まで押し通せなかったところだ。登場人物たちが地面に降りてしまえば、そこでサスペンスは消えてしまう。だからこの映画は登場人物たちをリフトの上に置き去りにしたまま、どれだけそこに放置し続けられるかにもっと知恵を絞るべきだった。そこで3人の逃げ道や救出を受けられる可能性をひとつひとつ潰しておけば、彼らが次に極端な方法での脱出を考えても観客は納得できる。もちろん宙吊りから解放されたからと言って、それで危険から逃れられるほどこの映画は単純にできていないのだが、3人をリフトに乗せたままでもあと10分や20分は観客を楽しませることはできただろう。

 登場する男女3人の主人公たちのうち、女性がちょっと弱いのも残念。男性ふたりは個性の違いを表現するため、輪郭のはっきりしたキャラクター造形に仕上がっているが、女性はそうした男性たちの個性を引き出す役目に回っているだけだ。観客の多くは映画館を出て30分もすれば、彼女のことを忘れてしまうに違いない。物語もキャラクターも細部を詰めれば傑作になったのに、少々粗いところがあって佳作秀作止まりになったのは残念。

(原題:Frozen)

8月7日公開予定 渋谷シネクイントほか全国順次公開
配給:ブロードメディア・スタジオ 宣伝:スキップ
2010年|1時間33分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.frozen-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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