ようこそ、アムステルダム国立美術館へ

2010/05/26 映画美学校試写室
オランダ美術の宝庫である美術館改修の右往左往。
当事者には悪夢も外野の目には喜劇。by K. Hattori

Rijksmuseum  オランダの中心都市アムステルダム(憲法上の首都だが商業や行政の中心となる事実上の首都機能はハーグにある)にある国立美術館(ライクスミュージアム)は、レンブラントをはじめとするオランダ絵画の収蔵量では世界最大の規模と内容を持つ美術館。ルーブル美術館などと並び称されるヨーロッパ屈指の大美術館として、アムステルダムの観光名所になっている。1885年に建設されたレンガ造りの建物は収蔵品の増加と共に拡張され、増改築された収蔵庫や展示室によってまるで迷路のような状態になった。オランダ議会は1999年に美術館の改築を提言して改築工事の準備が始まり、国際コンペでスペイン人建築家の新美術館計画が選ばれて、2003年頃からいよいよ本格的な解体工事に入った。新美術館の完成は2008年……のはずだったのだが……。

 このドキュメンタリーは改修工事が始まったばかりのアムステルダム国立美術館を取材し、最後は新美術館の落成でエンディングにする想定で撮影が開始されたようだ。しかし取材チームの前に現れるのは、そうした予定調和的ハッピーエンドにはほど遠いウンザリするような現実だった。完成している建設計画に市民団体から横やりが入り、建築家チーム自慢の設計図は大幅な修正を余儀なくされる。新時代の美術館を象徴する新しい建造物となるはずだった研究センターも、次々に設計にダメが出されて規模が縮小されていく。美術館を取り壊すための重機が動き始めてわかったのは、誰もこの計画に対して最終的な決定権を持っていないという無責任すぎる現実だった。民主主義では誰もが主役たり得るが、分野も立場も異なる大勢の人間が好き勝手に口出しして自分の意見のみを優先させようとすれば、船頭多くして船山に上るということになりかねない。事実、アムステルダムの新国立美術館計画は、寄ってたかって高い山の上に押し上げられたまま放置されてしまう。

 自慢の設計計画にダメ出しされた建築家は、最初戸惑い、次に憤り、さらに呆れ果て、やがて「どうにでもなれ!」と計画に参加し続ける気力を失っていく。新美術館での新しい展示について検討している学芸員たちは、机上の計画ばかりでいつまでたっても先に進まない美術館建設に苛立ち、テーブルの上で組み立てては壊すことを繰り返す計画のための計画に身も心も疲労困憊していく。映画のクライマックスは、多くの利害関係者の間を奔走し、計画の空中分解を何とか食い止めようとしてきた館長の辞任だ。美術館の仕事とはほど遠いお役所仕事に翻弄されて、館長は力尽きてしまったのだ。

 この計画に関わった美術館関係者たちには悪夢であり悲劇でしかないこの一連の出来事も、第三者の立場で外野席から眺めると滑稽な喜劇だ。この映画に似ているドキュメンタリー映画は思い出せないが、フィクション作品ならすぐ思い出せる。セドリック・クラピッシュの『百貨店大百科』だ。

(原題:Het nieuwe rijksmuseum)

8月21日公開予定 渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
配給:ユーロスペース
2008年|1時間57分|オランダ|カラー|デジタル
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ようこそ、アムステルダム国立美術館へ
関連DVD:ウケ・ホーヘンダイク監督
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