またたき

2010/05/12 シネマート銀座
死んだ恋人の最後の姿を思い出そうとするヒロイン。
暗い映画で、観ていても気が滅入る。by K. Hattori

会いたいから(初回生産限定盤A)(DVD付)  叔母の経営する花屋を手伝っている園田泉美は、数ヶ月前から精神科医のカウンセリングを受けている。彼女は恋人である河野淳一のバイクに同乗して交通事故に遭い、愛する人を目の前で失った。事故の後、気がついたのは病院のベッドの上。事故直後の記憶がないのは気を失っていたせいだと医者からも言われるが、彼女は自分の心のどこかに「その時の記憶」が眠っているように思えて仕方がない。消え去ることのない事故直後の記憶の断片が、トゲのように彼女の心に突き刺さったままなのだ。泉美はたまたま知り合った弁護士・桐野真希子に事故の調査を依頼する。調査によって浮かび上がってくる、事故直後の凄惨なありさま。それは泉美にとって、耐え難いものだった。泉美は本当に記憶をなくしているのか? それとも恋人の最後の姿を見ることができなかった負い目から、ありもしない記憶を「思い出さなければならない」と思い込んでいるだけなのだろうか?

 河原れんの同名小説を、『がんばっていきまっしょい』や『解夏』の磯村一路が脚色・監督したラブストーリー。物語の中心に最初から「恋人の死」というものがあるため、映画が全体として重苦しく暗いものになるのは仕方ない。しかし映画の登場人物たちが最初からずっと沈痛な暗い表情なのは、映画を観ていて憂鬱な気分になってくる。原作は未読なのでどういう構成になっているのか知らないが、映画については脚本の構成やキャラクター設定などに工夫する余地があったのではないだろうか。映画では恋人が死んでヒロインがカウンセリングを受けているところから語り始め、回想シーンとして恋人たちの過去の幸せな日々を挿入していく。ヒロインは物語の進展に合わせてどんどん深い闇の中に沈んでいくわけだが、最初にそもそも暗いところから始めてしまうので、その後の展開はよりダークでどろどろとした澱の中につっこで行くしかない。これが観ていて苦しいのだ。

 でも例えばこれは、映画の前半3分の1ぐらいを事故に遭うまでの恋人たちの話としてたっぷり描き、事故が起きてから時間を数ヶ月飛ばすという方法だってあった。(黒澤明の『生きる』のような構成。)こうすればヒロインが外見的にはそれまでとまったく同じなのに、表情が一変し、足を引きずっていることに観客がギョッとするだろう。恋人の死が言葉だけで語られていて真相がわからないという点に観客もひっかかりを感じ、ヒロインが事故の真相を探ろうとする行動に共感するだろう。恋人たちの過去のエピソードを回想シーンとして適時挿入することで、ヒロインの現在の境遇とのコントラストはより際立ってくるだろう。不幸に打ちのめされている人たちの中に、日常に根を下ろした生気にあふれる人物を何人か放り込んでもいい。

 物語自体は悪くない。映画の最後にはちょっと感動すらした。しかし映画の語り口に、僕はあまりノレなかったのだ。

6月19日公開予定 新宿バルト9、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
配給:S・D・P 宣伝協力:KICCORIT、アルシネテラン
2010年|1時間50分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.matataki-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:瞬 またたき
サントラCD:瞬 またたき
主題歌:会いたいから(K)
原作:瞬 またたき(河原れん)
関連DVD:磯村一路監督
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