ソウル・パワー

2010/04/07 映画美学校試写室
1974年にザイール(現コンゴ)で開かれた黒人音楽の祭典。
眠っていた記録フィルムを発掘。by K. Hattori

Soul Power (Ws Sub Ac3 Dol) [DVD] [Import]  1974年にザイール(現在のコンゴ)の首都キンシャサで行われた、モハメド・アリ対ジョージ・フォアマンの世界ヘビー級タイトルマッチ。ゾウも倒すと言われたハードパンチャーのフォアマンに対し、元チャンピオンのアリは年齢による衰えから劣勢が伝えられていた。しかし運命の10月30日。フォアマンの猛攻に常にロープ際やコーナーに追い込まれていたアリは、8ラウンドで劇的な逆転KO勝ち。これによってアリの第2の黄金時代が始まり、飛ぶ鳥を落とす勢いだったフォアマンは数年後の引退へと追い込まれていく。ボクシングファンから「キンシャサの奇跡」と呼ばれるこの試合については、1996年に『モハメド・アリ/かけがえのない日々』というドキュメンタリー映画が作られてアカデミー賞も受賞している。キンシャサでの試合に至る舞台裏を当時の記録フィルムから再現したドキュメンタリーだったが、そこでも少しだけ触れられていたのが、当時試合直前の共催イベントとして企画された黒人ミュージシャンたちによるコンサートだ。R&Bやソウルミュージックの大物たちが一堂に集まり、現地のミュージシャンたちと一緒に3日間のステージを行ったのだ。

 『モハメド・アリ/かけがえのない日々』を製作していたスタッフは、キンシャサで撮影されたまま埋もれていたフィルム素材を収集している際にこのコンサートの素材も見つけていたが、アリ対フォアマン戦の本筋からは外れるためそのままにしておいた。しかしその後、この素材を編集して新たなドキュメンタリーを製作。それがこの『ソウル・パワー』だ。映画は「ファンクの帝王」「ソウルのゴッドファーザー」とも呼ばれるJBことジェイムズ・ブラウンのステージから始まり、同じくJBのステージで幕を閉じる。雑多な演奏シーンの寄せ集めに、一本筋を通しているのがJBという希代の黒人エンターテイナーなのだ。

 しかしこの映画には、もうひとりの主役がいる。それはモハメド・アリだ。彼はコンサート自体には直接参加していないのだが、映画のあちこちに顔を出している。彼の存在がこの映画に、1974年という時代を刻印する。それは今からたった36年前の世界だが、今とはかなり違った世界だ。アメリカでは黒人が徹底的に、しかも公然と差別されている。アリはそんな黒人社会の現状と、そんな黒人たちの現状を放置しているアメリカ社会のあり方を、アリは激しい口調で徹底的に批判する。1974年にザイールのキンシャサで行われたボクシングの試合とコンサートは、単なるスポーツイベントや音楽イベントではなく、当時の黒人社会の動きとリンクした社会的事件なのだ。

 コンサート映画としては扱われるアーティストの楽曲が少ないのが残念。上映時間の制約もあれば、権利問題などもあるのだろうが、もっとたっぷり演奏を観ていたいと思わせる。

(原題:Soul Power)

6月12日公開予定 シネセゾン渋谷、吉祥寺バウスシアター、新宿K'sシネマ、川崎チネチッタ
配給:アップリンク
2008年|1時間33分|アメリカ|カラー|アメリカンビスタ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.uplink.co.jp/soulpower/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ソウル・パワー
DVD (Import):Soul Power
関連DVD:ジェフリー・レヴィ=ヒント監督
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