音の城♪音の海

SOUND to MUSIC

2010/03/25 UPLINK試写室
知的障害を持つ子供たちとプロミュージシャンの共演。
変わっていく大人たちをもっと見たかった。by K. Hattori

音の城/音の海  ダウン症や自閉症などで知的障害を持つ人たちと、彼らをサポートしている保護者やボランティア、音楽療法家、プロの音楽家などからなる「音遊びの会」。彼らが2005年に行った公開ワークショップ形式のお披露目公演「音の城」と、翌年ホールのステージを借りて行われたコンサート「音の海」の様子を、舞台裏の準備風景なども取り混ぜながら取材したドキュメンタリー映画。「音遊びの会」は現在も活動中で、映画に出演しているメンバーたちの多くはその後も年に数回ずつのペースでコンサートを行っているようだ。

 映画はサブタイトルが『SOUND to MUSIC』。これはもちろんかの有名なミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」のもじりでもあるのだろうが、「音から音楽へ」という言葉はこの映画の核心を突いたものだ。「音」と「音楽」の違いは何だろうか。その境界線を誰がどんな権限で決めるんだろうか。「音」でしかなかったものが、いつどのような形で「音楽」になるんだろうか。じつはこのことは、映画の中で結構真面目に論じられている問題でもある。「いったい音楽って何ですか?」「今ここで聞こえているものは音楽ですか?」「何か音が出ていればそれは音楽なんですか?」。しかしこうした問いかけに対して、映画の中で明確な答えは出されていない。少なくとも、それに誰かがズバリと明快な解答を与えてくれるシーンは映画の中に登場しない。しかし当初「僕はここで行われていることに音楽が感じられない。音楽がない以上、僕がミュージシャンとしてここに参加する意味はない」と言っていた音楽家(映画音楽の世界でも活躍している大友良英だ!)が、その後ずぶずぶとこの活動にのめり込んでいくのだから、やはりそこにはプロの音楽家すら魅了する「音楽」があるのだろう。

 この映画の中には、「音」が「音楽」になる生々しい現場が記録されている。それは多分「音の城」から「音の海」への変化の中に、見て取れるものなのかもしれない。「音の城」に欠けていて「音の海」に存在するのは、音を媒介にしたコミュニケーションだ。「音の城」では楽器が点在する洋館の中を人々が自由に移動して、楽器を手に取り、音を出し、つかの間の接点を持つとまた離れていく。そこでは人と人の交流よりむしろ、すれ違いの方が目立つ。だが次の「音の海」では、音を介したコミュニケーションが見事に成立しているのだ。そこでは音を介して発生したダンスや絵さえもが、見事に音楽の一部になってしまう。

 映画はとても貴重な記録になっていると思うが、ドキュメンタリー映画としてはもう一歩内部に踏み込んでほしかったようにも思う。参加したミュージシャンの戸惑いと、それを乗り越えていく様子はよくわかる。しかし映画からは、障害者と共に暮らす親や家族たちの姿が見えてこない。「音」が「音楽」に変わったとき、彼らも何かが変わったのではないだろうか?

2010年陽春公開予定 UPLINK Xほか全国順次公開予定
配給:音の城♪音の海 上映委員会、エイブルアート・ジャパン
2009年|1時間30分|日本|カラー|HDV
関連ホームページ:http://otonoshiro.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:音の城♪音の海/SOUND to MUSIC
関連CD:音の城/音の海
関連DVD:服部智行監督
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