ジョニー・マッド・ドッグ

2010/03/05 松竹試写室
アフリカの内戦で敵と戦う名もない少年兵たち。
戦争の残酷さを感じさせる作品。by K. Hattori

Jmd  世界各地の紛争地帯で、少年少女たちが戦闘に駆り出されている。志願して戦闘に関わる者もいるだろうが、多くは近隣の村や町から誘拐された子供たちだ。僕は以前『ウォー・ダンス』というドキュメンタリー映画で、アフリカの少年兵たちの実態を知った。子供たちは軍隊に誘拐される際、まず銃を突きつけられて自分の両親を射殺するよう命令される。命令に従わなければ、自分が殺されてしまう。しかし両親を殺せば、もう二度と村には戻れない。戻るべき家や家族を失った子供は、従順な兵士として戦うようになる。まだ10歳になるかならないかという少年たちが誘拐されて兵士となり、少女たちはその身の回りの世話や性的慰安に従事させられる。

 『ジョニー・マッド・ドッグ』はアフリカの某国で反政府軍に駆り出された少年兵たちの物語だ。原作はエマニュエル・ドンガラの同名小説(邦訳なし)。映画の中で具体的な国名が言及されることはないが、1989年から2003年までのリベリアの内戦がモデルになっているという。しかしこの映画は「政治」については何も描かない。描かれているのは少年兵たちを取り巻く個々の状況だけだ。それはウガンダ内戦に取材した『ウォー・ダンス』で紹介されていた事柄と、驚くほど似通っている。少年兵たちが体験することに、リベリアもウガンダも関係ない。この映画が国名を伏せ、政治について語らないのは、そのためかもしれない。これはリベリアの問題ではなく、おそらくは今も世界のどこかで起きている問題なのだ。

 映画では少年兵たちの非人間的な残虐行為がこれでもかと描かれているが、こうした残虐性が戦争という特殊な状況の中で行われた洗脳やマインドコントロールによるものなのか、それとも人間の本性に根ざした自然なものなのかはよくわからない。しかしどうもこれは「自然」なことのようにも思える。ウィリアム・ゴールディングの小説「蠅の王」(映画化もされている)みたいな世界だ。そこでは大人たちから切り離された子供たちだけの集団が、ごく自然に暴力に傾斜していく様子が巧みに描かれていた。だが少年兵たちは、周囲の大人たちから暴力的な振る舞いを期待され、鼓舞されてさえいるのだ。これで残酷行為に走らない方がどうかしている。体が小さくてもAK47のような自動小銃なら楽に持ち運べる。子供たちにとって戦争は、実銃と実弾を使った大がかりなリアル戦争ごっこだ。劇中には狙撃兵に狙われた少年兵たちが、狙撃手の潜むビルに突入して敵兵を射殺するシーンがある。無言のまま少年兵たちがキビキビ動く様子は、まるで戦争映画に出てくる本物の兵士たちと同じだ。

 しかし少年兵は血も涙もない冷酷な殺人マシンではない。この映画は彼らが残しているあどけなさ、幼さ、子供っぽさも同時に描いている。奪ったブタを運んでいるうちにすっかり情が移り、殺せなくなってしまう少年のエピソードが印象的だ。

(原題:Johnny Mad Dog)

4月17日公開予定 シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー
配給:インター・フィルム 宣伝・配給協力:エスパース・サロウ
2007年|1時間33分|フランス、ベルギー、リベリア|カラー|シネマスコープ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.interfilm.co.jp/johnnymaddog/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ジョニー・マッド・ドッグ
原作洋書:Johnny Mad Dog (Emmanuel Dongala)
関連DVD:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
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