誰かが私にキスをした

2010/01/19 東映試写室
外国人監督が作ったなんとも不思議なニッポン映画。
企画は面白いけど、映画はそれだけじゃない。by K. Hattori

darekagakiss  企画段階では「面白いアイデアだ」「すごい映画ができるかもしれない!」と大いに期待したのに、出来上がってみたらそうでもなかったという映画はたくさんあるだろう。たぶんこの映画のプロデューサーも、そんな気分を味わったに違いない。ダメな映画ではないが、期待したほどではなかった。面白いけれど、破格の何かがあるわけじゃない。かえって企画意図ばかりが空回りして、中途半端な映画が出来てしまった。こんなことなら、同じ話をもっと普通に映画にした方がまだよかったかもしれない。反省材料ばかりが残る、そんな映画だ。ただし考え方としては、これは今後の日本映画の方向性としてひとつのあり方が提案できたはずだ。今回はダメでも、同じことをまた別の機会にチャレンジしてみる価値はある。いや、チャレンジしてみなくちゃいけない。これはそんな映画でもある。

 この映画のコンセプトは、多国籍のスタッフとキャストによる、国籍を感じさせない映画だ。日本映画という一応の枠組みはある。主演は堀北真希。共演には松山ケンイチ、手越祐也。渡部篤郎がヒロインの父親役なのも新鮮だ。しかしこの映画、多国籍で無国籍だ。監督のハンス・カノーザと脚本のガブリエル・セヴィンは、ヘレナ・ボナム=カーターとアーロン・エッカート主演の『カンバセーションズ』で画面を常に中央から真っ二つに区切るという実験的な表現にチャレンジしていた技巧派。今回の映画では物語の舞台を東京郊外にあるアメリカン・スクールに設定し、堀北真希らがバリバリの日本人でありながら、思いっきりアメリカンなキャンパス・ライフを送るという映画になっている。堀北真希の周囲にいる3人のボーイフレンドのひとりとして、『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室』や『ターミネーター4』などで目下売り出し中の若手俳優アントン・イェルチンを連れてきたのも思い切ったキャスティングだ。

 日本映画の撮影に外国の映画監督を呼んでくるというケースは、ここ最近の日本映画に時々見られる形態だ。ソニーは同じことを椎名桔平主演の『レイン・フォール/雨の牙』でやった。綾瀬はるかと小出恵介主演の『僕の彼女はサイボーグ』は監督が韓国のクァク・ジェヨンだった。『鉄コン筋クリート』や『ヘブンズ・ドア』の監督はアメリカ人のマイケル・アリアスだ。ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノらを招いた『TOKYO!』という映画もあった。こうした外国人監督とのコラボレーションは、日本映画を海外に売り出していく突破口を作ろうという意欲の表れでもある。日本の中で日本の発想で映画作りをすることでは得られない何かを、外国人監督を招くことで得ようとしているわけだ。

 しかし今回の映画は、残念ながら企画意図ばかりが先走って映画の中身がスカスカになってしまった。企画を実現させることを優先して、映画の中身を練ることがおろそかになっている。

(原題:Memoirs of a Teenage Amnesiac)

3月27日公開予定 丸の内TOEI 1ほか全国ロードショー
配給:東映
2010年|2時間4分|日本|カラー
関連ホームページ:http://darekiss.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:誰かが私にキスをした
主題歌CD:キミがいるから
原作:失くした記憶の物語(ガブリエル・ゼヴィン)
原作:誰かが私にキスをした(ガブリエル・ゼヴィン)
関連DVD:ハンス・カノーザ監督
関連DVD:堀北真希
関連DVD:松山ケンイチ
関連DVD:手越祐也
関連DVD:アントン・イェルチン
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