噂のモーガン夫妻

2010/01/19 SPE試写室
殺人を目撃した別居夫婦が証人保護プログラムへ。
異色のスモールタウン・コメディ。by K. Hattori

mogan  ヒュー・グラントとサラ・ジェシカ・パーカー主演のコメディ映画。ジャンル的には、お金持ち夫婦が離婚をめぐるドタバタ騒動の後によりを戻すスクリューボール・コメディ、平凡な市民が殺人現場に遭遇して犯人に狙われる巻き込まれ型スリラー、都会の人間が小さな田舎町に行って騒ぎを起こすスモールタウン・コメディなどがミックスされている。しかしこれがうまくひとつにまとめきれず、つながりの部分でギクシャクした印象を残してしまうのがこの映画の弱点だろう。

 ニューヨークで暮らしているモーガン夫妻は、夫が富裕層御用達の敏腕弁護士、妻は雑誌の表紙を飾るほど有名な不動産ディーラーというセレブ夫婦。ところが今は、夫の浮気がばれて別居中だ。夫は何とか妻に許してほしいと必死だが、妻はどうしてもだめ。気持ちの上では許したいと思っているし、彼のことを愛してもいる。でもかつてのように、全面的に彼を信じることができない。たった一度の裏切りが、夫婦の関係を決定的に変えてしまったのだ。ところが久しぶりに夫婦で外出した帰り道、ふたりは偶然目の前で起きた殺人事件を目撃し、犯人に顔も見られてしまう。警察はふたりを重要証人として保護するため、ニューヨークから遠く離れた場所で偽名を使ってしばらく暮らすよう手配。このため別居中だったふたりは揃ってワイオミングの小さな町、しかもその町外れに住む保安官夫妻の家で、彼らの親戚と称して暮らすことになる。

 夫の浮気が原因でこじれてしまった夫婦関係だが、劇中には浮気相手を出さない。この映画は三角関係が描きたいわけではなく、あくまでも夫婦関係のドラマなのだ。この壊れかけた夫婦と対比させるように、いく度も波乱や危機をくぐり抜けてきたような保安官夫婦が登場するのがいい。演じているのはサム・エリオットとメアリー・スティーンバージェン。ニューヨークを舞台にしているとチグハグですれ違ってばかりいるように見える主人公夫婦が、この保安官夫婦と対比することで誰よりもお似合いの似たもの夫婦に見えてくる仕掛けだ。それまでとはまったく異質の環境で、それまでは決して出会うことがなかったような人々と出会うことで、主人公も観客たちも夫婦の相違点ではなく類似点に目が行くようになる。夫婦が証人保護プログラムの中で相手を再発見して行くプロセスは、同時に彼らが自分自身を再発見して行くプロセスにもなっているのだ。乗馬や射撃のエピソードは、その典型的な例だ。

 ジャンルをまたいでいく全体の構成がギクシャクしていることに加え、ギャグにパンチがないのもこの映画の弱味。使えそうなアイデアはたくさん散りばめてあるのに、それをギャグに結びつけようという意欲がまるで見られない鈍感な脚本。どうもこの映画はギャグで笑わせるより、しっとりした情感描写の方に向かっているようだ。夫婦が新しい関係を作り上げていくラストシーンは悪くない。

(原題:Did You Hear About the Morgans?)

3月12日公開予定 TOHOシネマズ 有楽座ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2009年|1時間43分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SDDS、ドルビーデジタル、ドルビーSR
関連ホームページ:http://uwasa-no-fusai.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:噂のモーガン夫妻
関連DVD:マーク・ローレンス監督
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