抱擁のかけら

2010/01/14 松竹試写室
盲目の脚本家が14年前に失った愛を取り戻す物語。
ペネロペ・クルスの本格女優ぶり! by K. Hattori

Houyou  ベテラン脚本家のハリー・ケイン。もともとは映画監督マテオ・ブランコだったが、14年前にその名前の人物は死に、後には盲目の脚本家ハリーだけが残された。彼は生きてはいるが、半分死んでいるのだ。だがそんな彼の心が、実業家エルネスト・マルテルが死んだというニュースに大きく動かされる。「あいつが死んだ」。その直後、匿名の若い映画監督から共同脚本の仕事が舞い込む。だがハリーはこの申し出を激しく拒絶する。男が語った脚本の原案は、ハリーにとってあまりにもむごたらしいものだった。何がハリーをそれほど動揺させるのか? 忠実なマネージャーの息子で助手でもあるディエゴにうながされ、ハリーは14年前の出来事を語り始める。それは悲しく無残でありながら、甘美で激しい愛の物語だった……。

 ペドロ・アルモドバル監督が、ハリウッドでもトップスターの座についたペネロペ・クルスを主演に迎えて撮ったラブストーリー。ふたりのコンビ作はこれで4本目になる。ハリウッドのペネロペ・クルスは「お色気担当のラテン系女優」になってしまっているが、アルモドバル監督と組むとスケールの大きな演技で観客を魅了する本格女優になる。もともと演技力のある女優なのだ。その演技力を買われてテッド・デミの『ブロウ』のような作品に出たこともあるが、最近はどうもパッとしない。たぶん本人も不本意だったに違いない。そうした鬱屈が、この映画の中で一気に開放されたような気さえする。もっともこれは、映画の中で演じているキャラクターにダブらせて、僕が勝手にそう決めつけているのかもしれない。

 今回彼女が演じているのは、大物実業家の愛人になっているレナという女性だ。彼女はもともと女優志望だったがその方面では芽が出ず、紆余曲折があった末に実業家エルネスト・マルテルの囲われものになった。生活に何の不自由もないのだが、カゴの鳥状態で気持ちはまったく晴れない。そんな中でマテオ・ブランコ監督の新作オーディションの存在を知り、彼女は見事ヒロインに大抜擢される。レナの歓心を買いたいマルテルは映画に出資してプロデューサーとなり、撮影現場に息子を張り付かせて彼女を監視する。しかしそんな監視の目を盗んで、マテオとレナは愛し合うようになる。

 レナとマルテルの関係は、ペネロペ・クルスにとってのハリウッド映画との関係なのではないか。そしてレナとマテオの関係は、ペネロペ・クルスとアルモドバル(あるいは他の非ハリウッド作品)との関係なのかもしれない。ハリウッドでは高給と贅沢な暮らしが味わえるが、そこでは女優としての本来の仕事ができない。だからスペインに戻ってアルモドバルの映画に出る。ハリウッドはそれについて非難するようなことはないが、しかし彼女の行動を厳重に監視しているわけだ。彼女が今後ハリウッドとどのように付き合っていくかはわからないが、この映画自体は彼女にとって代表作のひとつになるだろう。

(原題:Los abrazos rotos)

2月6日公開予定 新宿ピカデリー、TOHOシネマズ六本木ヒルズ
配給:松竹 宣伝:グアパ・グアポ、ショウゲート
2009年|2時間8分|スペイン|カラー|シネマスコープ|SRD、SR
関連ホームページ:http://www.houyou-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:抱擁のかけら
DVD (Amazon.com):Broken Embraces
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